287 / 292
雪華(せつか)
5
しおりを挟むぼうっと亡霊のような残像が一瞬見えた気がして、目を疑った。
覚えのある感覚に、…苦い味が舌に広がる。
「どうかされましたか?」
「ぁ、えと、」
どう言葉にすればいいものか。
今みたものが何だったのか伝える術も考えつかない。
迷って躊躇っていれば、怪訝に思ったのか密着していた身体が離れる。
「そこ、に……なんか、」
さっくんがオレの視線の先を追って、僅かに目を細めた。
その場所を見て、さっきまでとは違う……不機嫌そうに冷めていく整った横顔。
ああ、と納得したように低い声を零した。
「”何もありませんよ”」
「……ぅ、ん…」
心臓がおかしいみたいにドキドキと悪い感じがする鼓動を刻んでいて、わけのわからない恐怖感にくらくらしてくる。
ドキドキ、ドキドキ、突然世界が暗くなっていくような嫌な気持ち悪さ。
「お、れ…、どうし、」
「大丈夫です、夏空様」
言いたいことがわかっているらしい返答と、空気感の変化に少し怖くなって身を竦めていれば、……頬に触れる手のひら。
慰めるようにオレの頬に添えた手を僅かに動かし、目を細めるさっくんの優しい微笑みに、少しだけ気分が楽になる。
「それより、ハロウィン、クリスマス両日とも、当日は雪華様と過ごしてくださいね」
「…うん」
雪華も楽しみにしてると言っていた。
いつかは結婚するんだから一緒にいる時間は大事にしたいし、そうするべきなのもわかってる。
わかってる、…けど、
「今年はさっくんとじゃだめなのか?だって、クリスマスは…」
……その日は、さっくんの誕生日でもあるのに。
言いかけて口を閉じた。
やるせない感情に、俯く。
結婚したら、さっくんと過ごせる時間は今よりもっと減ることになる。
「お気持ちは嬉しいですが、特別な日は俺ではなく彼女と一緒に過ごさなければいけません」
「…なんで、」
正直に雪華を好きだとは思う。
……けど、オレに一度も会いに来ない親が決めた許嫁でもあるから会うたびに複雑な気持ちにもなる。
その感情が伝わったのか、聞き分けの良くない子どもに接しているみたいに、さっくんは困ったように眉尻を下げた。
「代わりに、その次の日を俺にください。特製ケーキをご用意しておきますので、召し上がっていただけたら幸いです」
「…っ!じゃ、じゃあそれ、オレがつくる」
何か、何かしたい。
いつもみたいに全部自分でやろうとするさっくんの代わりに立候補する。
それぐらいしないと、おめでとうの気持ちを伝えられない気がした。
キッチンに入るのは禁止されてるけど、ケーキぐらいなら良いって言ってくれるだろうし、心配なら危なくないように見ててもらえばいい。
「あと、欲しいものがあったら言ってくれ」
「……ほしいもの、」
真剣に見上げるオレに対し、戸惑ったように目を伏せ、視線を逸らされる。
毎年何もないって言われるけど、今年こそはもしかしたらあるかもしれないとちょっと期待していた。
22
お気に入りに追加
276
あなたにおすすめの小説
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
アダルトショップでオナホになった俺
ミヒロ
BL
初めて同士の長年の交際をしていた彼氏と喧嘩別れした弘樹。
覚えてしまった快楽に負け、彼女へのプレゼントというていで、と自分を慰める為にアダルトショップに行ったものの。
バイブやローションの品定めしていた弘樹自身が客や後には店員にオナホになる話し。
※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)
クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。
とうふ
BL
題名そのままです。
クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
変態村♂〜俺、やられます!〜
ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。
そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。
暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。
必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。
その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。
果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる