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雪華(せつか)
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「テレビってなに?」
膝の上に座ったまま、本を片手に読み聞かせてくれてるさっくんに声をかける。
特に意味はないけど、彼の白皙の首に腕を回して、ぎゅって抱きついた。
(…冷たくて、気持ちいい…)
トク、トク、と心音さえも聞こえそうなほど、服越しに密着した体温や肌。
さっくんの手とか身体はオレよりも温度が低いから、くっつくことで熱で火照っている身体が楽になる気がする。不安で心細いような感覚が、この温もりのおかげでひどく安心できる。
いつも通り優しくて上品な良い香りが鼻腔を満たして僅かに頬が緩んだ。
「娯楽用品です。怖い情報も報道されますし、夏空様には不要の品物ですよ」
「……別に、まだ欲しいとは言ってない。ただ話の中に出てきたから、気になっただけで…」
吐くたびに熱い吐息を滲ませながら、む、と唇を尖らせる。
お家で遊べるものは限られてるから、猶更に新しい家具に興味をひかれた。
ここに載ってる内容では色んな面白いものが見れるらしいから、ほんのちょっと……ちょーっとだけ欲しいかもしれないとは思っていたけど、
……いや、でもほんのちょびっとだけなのに、そんなに先回りして却下しなくてもいいじゃないかと思う。
「怖いって、どういうの?」
「…そうですね。例えば、殺人や強盗、暴行、監禁、心中、……誘拐、」
「う、ううむ。いい。聞きたくなくなった。…わかった。もう充分だ。怖いの苦手だから、必要ないな」
さっくんの口を手で塞いでふるふると首を振れば、可笑しそうに目を細める。
「前に言ってた、がっこーっていうのも怖い場所なんだろ…?」
「はい。端整な容姿の夏空様が行ったら、容赦なく食べられてしまいます」
「っ、た、食べられちゃうのか…?」
確かにいじめっていうみにくい争いがあるらしいし、最終的には食べられちゃうこともあるのかもしれない。
さっくんの言うことが間違ってるわけがないんだから、実際にそういった事例があったんだろう。
「世の中、怖いことばっかりなんだな」と熱の上昇のせいか恐怖のせいか、ぶるぶる震えれば、「大丈夫ですよ。貴方はそのような危ない場所に行かなくて済むように、俺が絶対に守りますから」と頭を撫でながら優しく抱きしめてくれる。
「夏空様、」
「…ん…ー?」
少しうとうととしていれば、控えめにかけられる声。
「雪華様とのお出かけは、如何でしたか?」
「ぁー、……楽しかった、けど……でも、結局こうなったから、…ぃ、゛」
返事をしようにも、咳き込む。
頭が、身体中があつくて痛くて、ギシギシする。
(デートのひとつも満足にできないなんて、愛想をつかされても仕方がない)
体調が悪くなったせいで途中で帰るしかなかった。
元々身体が弱いとはいっても、さすがにひどすぎる。
雪華は、許嫁だ。
幼少期から、大人になったら結婚するという話になっていたと聞いた。
だから、まだ彼氏というわけではない。
けど、実質上記の約束があるんだから似たようなものだろう。
雪華も、明らかにそう思っている様子だった。
だからこそ、さっくんのあの日の言葉の意味が…よくわからない。
”俺ではない誰かと恋人になって”っていうのは、雪華のことなのか。
それとも、別の人のことなのか?
「ぁ゛っ、…ぃ゛、…っ」
(……あたま、めちゃくちゃ痛い…っ、)
そのことを考えようとすれば全身の痛みやだるさが尋常じゃないほど酷くなってきて、思考するどころではなくなった。
体温計を見て自覚するのが嫌だから温度はわからないけど、さっくんによるとかなりの高熱ってことだった。
「…うー、なんでだよ、う、ぇ…」
「夏空様…」
涙が頬を伝って、しがみついてるさっくんの服にぽろぽろ零れる。
……オレはただ、普通に遊びたかっただけなのに。
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