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ほっとけーき
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しおりを挟む今だってほっとけーきのどろどろとか、涙とかで色々汚れてるほっぺたとか首も拭いてくれてるのに。
だから、そんなことを考えること自体がありえない。
けど、彼は「………そう、ですね。自分でも、何がしたかったのかわかりません」と、はぐらかすように、自嘲気味な笑みを零した。
「まぁ、…今回は俺のために怒ったり、泣いたりしてくださる夏空様の御顔があまりにも可愛らしかったので、やりすぎてしまったのは認めます」
「……っ、ぬ、……なんか理由がしゃくぜんとしないが、……たしかに、そういうところは酷いというか、…いじわる、だな」
前に本で読んだ、ドSってやつだ。
そういうさでぃすと?みたいな変なーへきが、さっくんにはあるのは否定できない。
優しいのに、たまにいじわるなことを言ったりしたりしてくる。
でも、その後とろーんってなっちゃうくらいたくさん優しくしてあまやかしてくれるから、べつに良いし、……本気で嫌だと思ったことはない。
(……嫌じゃない、けど…泣いてるときに可愛いって言われるのはまだ全然納得してないし、オレは男なのに、さっくんはめったに格好いいって言ってくれないんだよな)
むすっとしながら特に何も考えずに視線を動かせば、さっくんの首を少し濡らしているとろりとした生クリームらしき液体が見えた。
ケーキを作るときに混ぜてたどろどろの一部だ。さっき運んでもらった時か、抱きついた時に身体があたってたからかもしれない。
肩に顔をのせて抱きついたまま、すぐ目の前にあるそこを舌でぺろりと舐めて、ちゅぅって軽く吸った。
「……っ、?!」
「いじわるがえし」
「…っ、何、して」
悪戯心もあったけど、動揺した表情を見られる機会はめったにないからちょっと楽しい。
「さっくんは、綺麗な形のお菓子みたいだな」
透き通るような肌に舌を這わせると、余計にそう思う。
さっくんの存在自体がすっごく甘くて優しいデザートみたいだと今思った。というか、そういうお菓子が実際にあればいいのに。
「…さすが夏空様です。申し上げた直後にこのようなことをされるとは思いませんでした」
「……ぁ、」
舐めた首を手で庇うようにして隠してしまったさっくんに、あわてる。
「……おこった……?」
何も考えずにしちゃったけど、もしかしたら嫌だったのかも。
それに、他の意味でも良くなかったんじゃないかと後悔してきた。
「あの、今のはさっくんを道具だとか思ってやったんじゃなくて、ほんとに、さっくんには自分を道具だと思ってほしくなくて、嫌だと思ったことは嫌だって、」
「嘘ですよ」
「……え?」
「道具だとは思ってません。多分、夏空様に構ってほしかったんだと思います」
わたわたと言い訳をしていると、飄々として返された先日聞いた発言を真っ向から否定する台詞。
「だから、そんな顔をしないでください」
「…っ、それは、」
明らかにオレを安心させるためだけに。
それこそ嘘だとわかる言葉に、本心を隠そうとして見えて、喉奥まで出かかった言葉が声にならない。
「夏空様は出ていかないでほしいと仰いましたが、そうされることを……捨てられることを誰よりも恐れているのは俺の方です」
「……っ、」
寂しげに微笑む彼は、憂いを含んだ目を伏せる。
「過去を全てを知ってしまったら、間違いなく夏空様は俺を軽蔑します」
「っ、そんなことな、」
ない、と思う。
けど、さっくんは予見しているように首を横に振る。
「作り物みたいだと、昔からよく言われました。見た目と同じように、中身も感情のない人形のようだと」
「……」
「だから、悪い大人にとっては余計に使い道があったのだと思います。貴方に出会うまで、お聞かせできないような酷いことも数えきれないほどしてきました」
綺麗な二重のラインと長い睫毛は琥珀色の瞳に影を作り、高く通った鼻筋や色素の薄い白皙とした肌も、全てが美しい。
外見が整いすぎてるからな気もするが、確かに動いたり話したりして、更にはその笑みや泣いている時の顔もどの表情でも見惚れるぐらいに美しいから、
他のどの造形物よりも精巧に丁寧に作られた……美しい人の形を模した別の何かなのかもしれないと、錯覚に陥る人もいるだろう。
今だってそう感じる時もあるんだから、少年の頃も変わらない気がする。
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