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猫と少年のお遊戯
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しおりを挟む…違う。
こんな言葉では足りない。
もっと、もっともっと、すごいんだ。
実際に見た人にしか伝わらないだろう。
どんな言葉で表現しても足りない。
どう言葉にすれば、あの凄さを、目の当たりにして抱いた感情をわかってもらえるんだろう。
さっくんが紙人形を扱う様は…いつにも増して畏敬さえ感じさせる美しさは、神秘的で儚くて、神々しい。
いつもと違う空気、雰囲気。
集中して瞼を軽く伏せた真剣な表情も、
作るときの願いを込める仕草も、
風が撫でたように微かに揺れる艶やかな黒髪も、
嘘じゃなくて、本当に全部キラキラして見えるんだ。
……その姿を美しいと、いつも思う。
他のどれとも比べられないぐらいあまりにも美しいから、この世のものじゃないんじゃないかと錯覚しながらも陶酔し、心を奪われて毎回見惚れてしまうほどだ。
それなのに、
「この紙も、…俺も、そう仰っていただけるような綺麗なモノではありません」
オレの必死の反抗を遮る、…感情を押し殺した少し低めの声色。
硬くなった音が、迷いなく断定し、否定する。
「……モノ…、」
「夏空様が必要としてくださるまでは、卑俗な人間が悦ぶような…穢れた遊び道具の一つにすぎなかったんですよ」
(……遊び道具…?)
そういえば、最初の頃もよく言われていた。
『俺のことは都合の良い道具だとお考えください』と。
「……どういう、意味…?その遊び道具っていうのは、……”俺も”って、」
わからない。
耳に届く言葉の意味がわからない。
どう飲み込めばいいのか、何を言えばいいか戸惑って、口を噤む。
……なんとなく、続きを音にしたくなかった。
多分、その声色と言葉の使い方から…良い連想はできない。
「知りたいですか?」
「……う、…ん…っ?」
返事が終わる前に、腕の拘束が緩み、背中から体温が遠ざかる。
振り返れば、手首を掴まれた。
「………え、…?、わ…っ、」
反射的に身体を引こうとして、体勢を崩される。
視界がぐらりと揺れ、ぎゅっと目を瞑った。
床に押し倒され、頭と背中全部に固い木の感触が触れる。
「…え、…な、…なに、さっく、」
さっくんがオレを見下ろしていた。
……整った顔にいつものやわらかい微笑みはなく、意図的に消しているのか何の感情も読み取れない。
(…う、……、怖い…)
真顔になると、なんでこうも怖いんだろう。
……それなのに、するりと指を絡められて手を握られると、少しだけほっとして、安心できるから好きだ。
オレの緊張が僅かに和らいだのを見て目を細めるさっくんに、やはりすべて見透かされているんだと思うと拗ねたくなる。
べつにこの状況自体に違和感はないし嫌でもないし、今更驚くことでもないんだけど、
……今のさっくんの表情と空気感は、…ちょっと、普通じゃない気がして…なんだか違う雰囲気が怖くて、心臓がどきどきしてくる。
見上げていられなくて、顔を背けようとすれば低い体温の手が頬を包むようにゆっくりと触れてきた。
「以前、俺が過去にどういう生活をしていたか教えてほしいと仰っていたでしょう」
まるでペットを愛でるように肌を撫でられて、その気持ちいいのか不思議な感覚に「…っ、ん、ん…」と変な声が漏れる。
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