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君が望んだ虚構
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ソファーの上でさっくんのお膝の上に座ったまま、絵本を読んでもらう。
その話の中に、主人公の少年が仲の良い親子を見て羨む場面があった。
「なんで、オレの父様と母様は帰ってきてくれないんだろうな」
玩具箱の中身をひっくり返したように、キラキラと輝くイルミネーションで彩られた商店街。
「プレゼント何が良い?」「ぬいぐるみ!」と幸せそうに笑う家族を見て羨ましいと思う少年に共感し、少し感傷的になってしまう。
「…夏空様、」
「別に、そんなのどうでもいいけど」
心配そうに声を零すさっくんに、慌てて言葉をかぶせた。
「オレには、さっくんがいるんだから」と続けて、ほんのちょっといじけたような感情が滲んでしまうのを自覚した。
そもそもオレが覚えている間で一度も会いに来たことがない人間達だ。
写真だけでしか見たことないから、実際には何も知らない。
きっと産むだけ産んで、愛情なんか欠片もないんだろう。
執事に任せて以降、一切連絡しない両親なんか家族じゃない。
「……申し訳ありません」
瞼を伏せ、自分の罪だというように暗い表情をする彼に、小さく首を傾げる。
ひどくつらそうに眉根を寄せ、視線を逸らすから、「なんで謝るんだよ」と明るい声を出して言ってみる。
「さっくんは悪くないだろ」と否定する己の未熟さに、ああ…だめだなと思う。
あんなことを言ったら心配をかけるってわかってたのに、口に出てしまった。
ちょっとでもオレの気持ちが伝わったらいいなと思って、さっくんの頬に両手で触れた。
俯いている顔を、少し上げさせる。
琥珀色の宝石にも似た美しい目が、今は所在なさげに僅かに伏せた睫毛によって陰りをみせている。
……謝らせてごめんな、と自戒の意味の込めて呟いた。
「俺が御傍にいます。貴方が望むなら、夏空様の為なら何でも致します」
「……、うん」
抱き締められる。
オレの気持ちを汲み取って与えられる優しくて切ない声に、言葉に、喉の奥が詰まって、胸に熱いものがこみ上げてくる。
頷き、その背中に腕を回した。
主人として情けないかもしれないけど、甘えたくて、肩に瞼を閉じて顔をちょっとだけすりすりする。
そうすれば、大切なものに触れるような繊細な手つきで頭を撫でてくれた。
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