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君が望んだ虚構
2
しおりを挟む意思と関係なく、瞼が閉じてくる。
……限界だ。
「寝る」と零し、さっくんの手が離れた隙に再びベッドにゴロンと身体を落とす。
「…っ、お召し物がかなり乱れた状態でベッドへ倒れ込まれるなんて…、…俺を誘っていらっしゃるのですか…?」
「違う」
即座に否定した。
確かに言われてみれば半分脱ぎかけで横になったから半裸に近いかもしれないが、その解釈はひゃくぱーせんと間違っている。
聞き捨てならないと訴えるために目を開ければ、…少し照れたような表情で視線を逸らし、口元を片手で覆っているさっくんが見えた。なんだその顔。なんで頬を染める。絶対に違うぞ。
「どちらにしても残念です」と零される声に、…どちらにしてもって、どういう意味だ。もしかしてその選択肢のうちの1つに今のが入ってたのか。
「外出用のお洋服と別に、室内用も夏空様のために沢山ご用意したのですが…」
うぐ、と変な声が出そうになった。
昨夜は結構長い時間、オレの個人的な事情で服選びに付き合ってもらったから、それを言われると…少し弱い。
せっかくだからお店に行くかという話になりかけた。
だが、人酔いする、定員に話しかけられるのが嫌だと言ったら、さっくんの自作だけじゃなく、オレに合いそうなものを全て大人買いしてきた。
いつもように家にお店の人が届けてくれるから、荷物にはなってなかったとは思うけど、
…それでもオレのわがままで無駄に手間をかけさせたという後ろめたさは多少ある。
しゅんと落ち込んで悲しそうに、…まるであるはずのない犬の耳としっぽが垂れているような雰囲気のさっくんに、…心苦しくなってきた。
「……仕方ない、あとちょっとだけだからな」と、もう少しぐらいは着せ替えに付き合ってやることにした。
……
……………
「本日もとてもお美しいです、夏空様」
「……うん」
上機嫌で結論を伝えられるが、もう答える気力も残ってない。
いつもは白系が多いけど、今日は黒と赤の服の組み合わせが気に入ったらしい。
着せ替え人形タイムがやっと終わったと、疲労感で何も考えたくない。
「ん」
両手を伸ばせば、慣れた動作で抱き上げられた。
首に手を回して身を寄せると、上品で優しい良い香りがする。
美しい黒髪と白く綺麗な肌。その整った横顔を見ながら、やっぱり改めて勿体ない気がしてくる。
スーツしか着ないのは、…何か間違っていると思う。
さっくんの服も一緒に選ばないとだめだなと眠気ながらにぼんやり考えた。
家では何度も私服で良いと言ってるのに、何故か意地でも着替えようとしない。
(……自分のことをおろそかにしてるのはオレじゃなくて、さっくんの方だ)
そんなことを考えている間に、寝室からリビングへ移動していた。
椅子に腰をおろされ、朝食のほかほかスコーンにクリームをつけて食べさせてもらう。
「うむ。クリームが良い感じに甘くないから、特製スコーンにすっごく合うぞ!さすが、さっくんはいつも何でも美味しく作る天才だな」
「…っ、嗚呼、もう、大変可愛らしい笑顔で見上げてくださって……至極光栄です。最上級のお褒めのお言葉をくださり、ありがとうございます」
食感の良いスコーンから、バニラの風味がする。
口に入れやすい形に用意して、あーんしてもらうのはいつものことだ。紅茶も飲ませてもらった。
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