貴方は俺を愛せない

和泉奏

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彼と私の秘密(桃井ver)

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「音海とは何回しても子どもができないんだから、意味のないセックスじゃん」


「私なら、妊娠できる。結婚もできるよ。それが嫌なら、咲人との子どもだけでもできたら、二度と付き纏わない」と、夢見心地に想いを馳せた。


遺伝子だけでもいいの。
咲人との子どもなら絶対に綺麗な男の子になる。

都合よく利用された、嵌められたって知っても構わない。


(……それでも、好きなの)


好きなの好きなの好きなの好きなの好きなの。

好きなのは見た目が理想以上ってだけじゃないもん。
女性の扱いやセックスに慣れすぎてるのも、行為の最中に何の感情もなかったのもわかってる。

けど、だからこそあなたがすき。

すべてを手にしてるのに、全部諦めてるみたいな瞳をしている貴方がすき。

もう、取り返しのつかないところまで溺れてしまっているのだから、今更タダで手放されてあげない。


「…………なんで、同じこと、を」

「ぇ、……?」


微かに震えた声音が零される。

(……同じ……?)

咲人にしては珍しく感情を滲ませた言葉に、どういう意味かと顔を上げる。


と、「痛…っ、」突き飛ばすように肩を押して引きはがされ、よろめく。
結局踏みとどまれずに、バランスを崩して地面に尻もちをついてしまった。


「な、!なにす…っ、」

「何か勘違いをされているようですが、貴女と夏空様への感情に違いはありません」


地面に座り込んだ私を見下ろす顔に、既に動揺はなかった。
背筋が凍るような…冷たく美しい瞳に、私が映っている。

…ていうか、…私を諦めさせるためか知らないけど、冗談にも程がある。


「はぁ?それが嘘ってことくらいわかるから!だって、どう見ても私と違って大事にしてる!どうせいつも私に向けたのじゃない、音海には本心から好きって言って――」

「先程もお伝えしたでしょう。俺の好きという言葉に、意味はないと」


――……好き、なんて気持ちがなくても言える――


数分前、浴びせられた台詞。
だけど、それは私に対してのもので。

その対象に他の人間が含まれていたとしても、音海だけには当てはまらないと思っていた。

誰が見ても、接する態度が、雰囲気が明らかに『他』に対するものとは違う。


それなのに、


「………え…?………音海、にも……?」


また嘘をついてるんでしょ、と思った気持ちが揺らぐ。

懐疑的に彼を見上げて、単なるこの場しのぎの嘘ではないと察した。


(……どういう、こと…?)


これは、冗談とか、適当に返した言葉じゃない。
演技でも、ない。

でも、それならやってることと言ってることが矛盾しすぎてる。
見ていてもわかるほど、咲人は音海が望むなら、命令することなら何でも従う。

だからそれを利用して、咲人を私の執事にさせた。
認めるのも悔しいけど、その命令があったから、結果的に私と寝たんだろう。

どう関係してるかは推測もできないけど、宮永の死体処理だって、きっと音海のためで、
……音海のためなら私の想像を超えたことでもするんだろうと確信がもてる。


なのに、『音海と私への想いに違いがない』って言った。

どうでもいい相手のために、そこまでできる…?


(……だとしたら、やっぱり、お金……?)


そうとしか考えられない。
だって、巨額の報酬以外に、好きでもない相手の命令に全て従う理由が思いつかない。

言葉自体を理解しても、その意味を飲み込み切れず、眉根を寄せる。


私の考えが間違ってた………?


”咲人は、音海をとても大事に扱っているように見える”から。

正に、崇拝しているように感じるほど。

咲人は愛を囁く台詞で他の人間は騙しても、特別な相手には同じことをするのは罪だと思う性格だと思っていた。

音海本人が聞いていなくても”そういうこと”を、
…音海の存在価値を下げるような、他の人間と音海が同じだと口にしたり、気のない態度をすることすらしてはいけないと思う思考だと思っていた。


けど、違うんだ…?


なら、あれは、私の勘違いじゃなかったんだ。
皆が気づかないぐらい時々、咲人の音海を見る眼差しがそういう、『大事な相手』に向けるものと違うことがあったのは、


(…もしかして、私の知らない何かがある……?)


気づいた瞬間、猶更に興味を惹かれる。



「……ねぇ、本当に、…私やその他だけじゃなくて、音海にも好きじゃないのに好きって言ってるの?それ、音海は知ってるの?」



もっと教えて。
私の知らない咲人を、もっと、もっと教えて。


直接的な言葉で聞きたくて、無意識に乾いていた唇を、動かした。



「だから、簡単に私とも寝れたの?たまに冷たい目で音海を見てたのは、そういう理由で――、」



続けようとした言葉が、途中で消える。


「所詮、良く出来た人形を使ったおままごとですから」


薄く形の整った唇でそう呟く咲人は、

……それこそ、まるで人の感情を持たない美しい人形のような表情をしていた。



―――――――――


”良く出来た人形を使ったおままごと”


それは、誰のこと?

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