貴方は俺を愛せない

彼と私の秘密(桃井ver)

6

「た、他人に言われて困る秘密…？私にそんなのあるわけ」

「それにしては、酷い顔色をしているように見えますが」

「してない…っ、」


頭を大きく横に振る。

見据えるような視線に、思わず足が後退する。
鼓動がリズムを速める。
足先から、指先から一瞬で引く血の気に、小刻みに震える。

違う、ちがう、そんなものない。
私には、人にばれて焦ることなんて何も、


「可哀想に。眠れていないのでしょう、『あの夜』から」


その形の整った薄い唇から囁かれる声音が、僅かに変化した。

蠱惑的な台詞を吐き、憂わしげに、気遣う素振りを見せる。
耳の奥に絡みつくような、少し低めの甘く優しい声。

普段なら、その台詞を聞いた瞬間に喜んで抱きついただろう。

見ていてくれたのだと。
私のこの尋常ではないつらさや、不安、恐怖感に気づいてくれたのだと。

音海のせいで、傍には来られなかった。一緒にはいられなかった。
でも、内心ではずっと気にかけてくれていたのだと。


（…………そう、思えたのに…っ、）


……この状況で、
暗に、”あのこと”をばらされてもいいのかと含みをもつ問いかけをされた後には、一番言われたくない言葉だった。

今みたいに明らかに気遣いが嘘とわかる拒絶にも似た態度では、特に。


「な、なにそれ…っ、私が誰かに話したら、”あれ”を…他の人に言う、ってこと…？」


まさか、まさかありえない、と思う。
そう、思いたかった。

あってはならない。
それも、……他の誰でもない、彼の口からなんて、



「ねぇ、そんなことしないよね……？咲人は、私の王子様だもん…、そんなひどいこと、しないでしょ……？」

「……さぁ、どうでしょう」

「っ、！！！」



はぐらかすような態度は、むしろ明確な肯定を示していた。



「……私を、脅す気…っ？！」



――あの夜――

その言葉の本当の意味を知らなければ、愛されているのだと錯覚してしまいそうなほど、