貴方は俺を愛せない

和泉奏

文字の大きさ
上 下
246 / 293
彼と私の秘密(桃井ver)

3

しおりを挟む



……あの夜ではない。
私たちが結ばれたあの日には、確かになかったのに。

つまり、他の人間に傷つけられるほどの期間は開いていなくて。

しかも音海が嘘をついてないって考えたら、

……もしかして、と以前にもよぎった可能性。

懐疑し、…震える唇を開いた。


「…まさか、咲人、が………自分でやった、の…?」


口から出した言葉に、ばかげた問いだと少し笑ってしまう。
するはずがない、ありえないと思う感情が露骨に顔に出ているのを私自身自覚していた。

けれど、

否定はされない。
いないものを扱うような態度が、……決してこちらを向くことがなく逸らされたままの視線が、暗に答えを示していた。

ただの思い付きだった疑惑が確信に変わり、零れる非難。


「ねぇ、どうして…?何故…?」


どんな女だって自分のものに、男にしたがる。
喉から手が出るほど、何を代償にしても欲しいと願われる容姿だというのに。

恵まれすぎている身体を無意味に傷をつけ、それを私のせいにして、何の意味が…


「貴方にその理由を言う必要がありますか」

「…っ、」


心の芯まで凍るような…温度のない声に、泣きたくなる。

美しい顔には何の感情もない。
冷たい表情で、私を一瞥する。

その仕草に足が竦み、彼の身体に触れていた手を勝手に離してしまう。
右足が、勝手に後ろに下がり、言葉を失った。

咲人は、そんな私に優しい言葉をかけることもなく、何事もなかったかのように立ち去ろうとする。

私のことを一度も、振り返ろうとしない。

傍にいるのに。
手を伸ばせば、触れられる、抱きしめてもらえる距離にいるのに。

……こんなに、こんなにも全身で、私は咲人を求めてるのに。


「待…っ、」


引き留める声が、漏れる。
恐怖に身を引いたのは一瞬だけで、すぐに酷い、と裏切られた感情で憤りに染まった。

さっき、なんて言ってた…?
……私に理由を言う必要がない……?

何度触れても口づけても飽き足らない、愛しの咲人の身体に酷い傷跡が残っている。

許せない。
それだけでも許せない、怒りを堪えられないのに、

それを私がしたってあんなふうに言われて、…それなのに、私にその理由を言う必要がないって…?

激しい屈辱と怒りのまま追いつき、腕を掴んだ。


「あるに決まってるでしょ…っ、!音海に、好き勝手に言われて、何もしてないのに、私は……、…っ、」


続けようとした言葉が、声が喉に詰まる。

私を見下ろす目に、何の感情もない。
私が侮辱を受けたということなんてどうでもいいみたいに。

悲しむ私の気持ちなんて最初からどうでもいいとでも言うように、


「……そうだ、!ねぇ、もしかして私のことが好きだから、だから気を引きたくてしたんでしょ?」

「……」


口に出してから、これだ、と思った。

そうだ。
そうとしか思えない。
私の気を引きたいから、私に自分をみてほしいから、彼は嘘をついたんだ。

だって、そうでなければおかしい。

咲人の運命の人が私で、私の運命の人は咲人なんだから。
……やっと、あの夜に想いが通じ合ったんだから。


「条件付きで、今なら許してあげてもいいかもね」


スーパーだとか、人の目があるとか今更気にもならなかった。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

処理中です...