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家族ごっこ
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しおりを挟むいつにも増してなんか甘い……!!!
”もしかして、これはいけるか”と期待を寄せ、願いを口にする。
「名前で、呼んでほしい」
「……」
『様付けじゃなくて、名前だけの、やつ』と言わずともわかったのだろう。
その一瞬の、さっくんの表情の変化を見逃さなかった。
(…どうして、そんな顔をするんだろう)
別に、そこまで難しいことじゃないはずだ。
むしろ、名前を呼ぶなんて簡単すぎるくらいで
「……」
けど、彼は頷かない。
さっきまでの甘い雰囲気はどこかへ消えてしまい、気まずい沈黙だけが残る。
「やっぱいいや!ごめんな」
そもそも、今回のはさっくんを困らせるために考えたことじゃない。
なのに、わがまま言って嫌な思いさせたら本末転倒だ。
「兄弟ごっこもやめにしよう。無理やりやらせて悪かった。普通の、いつもの感じにしよう。」
慌てて言葉を募る。
今言ったことだけじゃない。
この雰囲気が続くと、オレもおかしくなりそうだった。
…勘違い、しそうになってしまう。
視線をさまよわせ、あることが視界に映って「あ、」と声を上げる。
「なぁ、今日満月だ。さっくん、ほら見」
とりあえず話題をそらしたくて、窓の外を指さす。
声をかけながら、窓の方に近づこうと、手を離そうとして
「…?、」
待って、というように手を掴む力は緩まない。
と、ソファーに腰かけ、引き留めるようにオレの手を掴んだ彼を見下ろし、目が合う。
驚き、瞬いた。
「行くな」
「…え、」
掠れ、絞り出したような声音。
ただ、窓の方に歩いていこうとして、そんなこと言われると思ってなかったから戸惑う。
…何かが違う。
外見はいつもと変わらない。
それなのに、纏っている空気が、違う。
表情が、いつもと
(…な、んで…)
オレが絶句するのとほぼ同時
…静かに、躊躇いがちにその整った薄い唇が開く。
「――夏空」
「……っ、ぇ、」
息をすることさえ忘れてしまいそうなほど、感情が滲みでている。
思いつくどの言葉でも表せないような、そんな声だった。
心臓が痛み、きしみ、叫ぶ。
…勘違い、するなと戒める。
だって、彼はオレを”好き”じゃない。
好きなわけじゃない。
なのに、
それなら、
…なら、
どうして、
そんな顔で、そんな声で、
オレの名前を呼ぶんだ。
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