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それ以上の関係にはなれない
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「はい、夏空様の大好きなうさぎりんごですよ」
「……」
心配そうに優しく目を細め、見惚れるような笑顔を浮かべてあーんしてくるさっくんから、ふいと顔を背ける。
その手に持たれているフォークの先には、突きさされたりんご。
「いらない」
「うさぎりんご、お気に召しませんでしたか…?」
「…食欲がない、だけだから、気にするな」
げほ、と咳き込めば、焦ったような表情で、「夏空様…っ、」とまるでこの世が明日にでも消えるんじゃないかというレベルで熱を測るためか、過保護な仕草でおでこに額をくっつけようとしてくる。
「…っ、や、めろ、って、」
「ですが、」
何気なく近づけられる整った顔のせいで、熱以上に頬が上気しそうになる。
いつも通り。
何事もなかったかのように、いつも通りな光景。
避けるオレを、不思議そうに覗き込んでくるさっくん。
その異様なまでに似合っているスーツにも、ネクタイも乱れなんて全くない。
それから
「……」
掛け布団を掴んでいる自分の手の裾。
猫のキャラの絵柄のついたパジャマだ。ちゃんと脱げてない。
…あの瞬間の、声を上げて泣きたいほど苦しい雰囲気なんか欠片もない。
”夏空様が好きなのは、俺ではありません。ただ、気持ちいいことが好きなだけなんですよ”
繋がったままの体勢。
見つめあってそういわれた時、心臓の何か大事な部分が大きく揺さぶられた。
欣幸。
切望。
悔恨。
焦燥。
冷淡。
絶望。
慟哭。
それらが混じったような、一度見たら二度と忘れられない表情でオレを見下ろすさっくんに、心がちぎれかけた。
と同時に、瞬間気づいた。
これは”拒絶”なのだと。
…なんとなく、わかってしまった。
その後のことは、あんまり覚えてない。
まぁとりあえず、イきすぎたせいか腹筋がとんでもなく痛いのと、熱が出て酷く怠いことだけは確かだった。
「テレビの前まで運んで」
布団から少しだけ顔を出して、敢えてそっちを見ずにぼそりと吐き捨てるようにつぶやく。
正直いうと息を吐くだけでもつらい。
しかもさっくんのアレが入ってた場所がいまだに違和感あるし、イキすぎたせいか筋肉痛だし体も動かしづらいし腹筋も腰も痛い。力がうまく入らない。声もうまく出ない。カスカスだ。
けど、
「今のお身体の状態でテレビなんて見たら余計に熱が上がりますよ。それに、あれだけ激しく動いて感じておられたのですから、あまり無理は」
「…っ、うるさい」
熱い息とともに、叫ぶ。
うるさい。うるさいうるさい。
言われた瞬間に勝手に思い出して、ちんちんが、腰が、肚がぎゅんって疼いた。
それ以上に別の意味で瞼の裏が熱くなったけど、もう知らない。知らない。
不機嫌をあらわにして、口調を強くする。
「さっくんは、オレの命令なら”何でも”言う通りにするんだろ」
「…では、お熱が出ているので少しだけにしましょうね」
沈黙の後、はぁと諦めたような吐息が零され、かけ布団が丁寧にはずされた。
腰の上と、腿裏に腕を差し込まれ、軽々とした動作で抱き上げられる。
安定させるためにぎゅって寄せられると距離が一気に近くなり、すぐ目の前にその綺麗な顔が見えて慌てて視線を反らす。触れる肌から感じる体温に耳の後ろが異様に熱を持った。
お互いさっき風呂に入ったばかりだから、その首筋やさらりとした黒髪から良い香りが鼻孔を擽る。
けど、必死に表面上は何でもないふりを装って、テレビの前のソファーにゆっくりとおろされた。
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