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甘くて、痛くて、泣きたい
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しおりを挟むひとつひとつ傷をつけられるたびに、オレなんかじゃ想像もできないくらい、痛かったはずだ。
斜めに、ぎざぎざに、それらはつけただろう人間の色々な感情を伴って残っている。
本来なら幸せな行為のはずのキスマークでさえ、今そこにあるものは痛々しく、醜い欲の刻印に見える。
「どうして、どうしてそこまでするんだ…っ、幸せって言ってもらえるほど、オレはさっくんに何もできてないのに、なんで…っ、」
普段してもらってばっかりで、オレはわがままを言って甘えてるだけだ。
何も返してない。返せるものなんかない。
「そうではありません。貴方が、生きて俺に望んでくださることが嬉しいのです。貴方の笑顔を見ることができれば、俺はこれ以上ないほど幸せになれますから」
「っ、でも、」
儚げに、美しいとさえ思える微笑みを零すさっくんに、愕然として身体が震える。
「夏空様が命じてくだされば、何でも致します。例えば…貴方が望むなら、香織と本当の恋人になります。結婚もします」
「…っ、な」
さらりと言われた信じられない言葉に、耳を疑った。
「例えば、貴方が『つまらない。見せ物が欲しい』と仰るなら、…過去に多少の経験がありますので、方法はわかります。貴方の目の前で嬲り物になりましょう。少しでも楽しんでいただけるように、どのような方のお相手でも致します」
「……っ、それ、っ、て」
何かを思い出したかのように、暗く陰った表情で視線を下げて自嘲ぎみに呟く。
…以前も、『夏空様が俺を不要と判断なされたら、喜んで自害致します』って言っていたのを思い出す。
時々ちらりと見える彼の闇に、あまりにも歪んだ考えに、刺さる毒に、言葉に詰まる。
「夏空様の望まれることが、俺の望みでもありますから」
にこやかに口元を緩めて、ですが、と少し低くなった声で続けた。
「ですが、…どうしても、俺は…貴方のお傍にいられなくなることだけは、…生きているのに、貴方から拒絶され、捨てられ、…二度と会えなくなることだけは嫌なのです。」
たったひとつのさっくんの願い。
…だけど、つまりその言葉は、オレと離れること以外なら何でもやるということを言外に示していた。
どうして、とさっくんに詰め寄りたくなる。
オレなんかに、そこまでする意味なんかないだろ。
「…今の話の、一体どこが幸せなんだよ…っ!」
「幸せですよ。貴方が…命じてくださるだけで幸せになれるのです。今回の件は、少しでもそれを証明できればと思い、実行しました」
……さっくんはいつもそうやって笑って言う。
オレの命令に従うのが幸せなのだと。これ以上ない喜びなのだと。
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