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甘くて、痛くて、泣きたい
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しおりを挟む違う人に向けた、想いを込めた台詞。
明らかに、家族へのそれとは違う……特別な、感情。
「彼女を好きになって、傍にいたいと思った」
普段優雅で、物腰の柔らかい飄々とした態度ばかりで、
だから他の誰のことも特別だと思わせるようなことは言わなかったから、オレもそうなるかも、なんて可能性すら感じたことなくて、
……初めて、彼の口からこんな風に男の人らしい言葉を聞いた。
「彼女にこうして触れて、唇を重ねて、抱きしめたいと思った」
言葉を零しながら、感触を楽しむようにオレに触れる。
違う人間に向けられた言葉だとわかっているのに、
…耳朶に薄い唇を寄せられて囁かれれば、既に手懐づけられた身体が反応し、胸が高鳴ってしまう。
「…っ、ほん、とう、に…桃井が、すき…?」
オレの問いに、「はい」と微笑んで応えるさっくんに…目を、見開く。
まさか、って、まだ思ってる。
…さっくんも、
女の人を『好き』になるのだと…そんな当たり前のことを今更思い知らされた。
もういい、聞きたくないと。
そう言ってしまえば楽になれるのに、凍り付いた身体は、指先一本すら…思う通りに動かせなかった。
「ね、夏空様、」
「…っ、ぁ、」
低く掠れた声音を零しながら、耳たぶをかぷりと甘噛みされる。
舌で軽くそこを舐め、
クス、と整った顔に笑みを作った彼が、オレの頬を撫でて、
「香織が傍にいない間、…貴方が代わりに俺を慰めてください」
「…――ッ、」
一瞬、何を言われてるのかわからなかった。
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