158 / 305
甘くて、痛くて、泣きたい
5
しおりを挟む言わなければ良いのに、滑り落ちてしまう。
「――さっくんは、…本当は桃井のことが、」
『好きなんだろ』
続けようとした音は出せなかった。
…ぽつりぽつりと湧いてきた言葉を考えもせずに詰るように笑いながら言葉に出し続けて、喉に魚の骨が引っ掛かったような感覚に陥って、やっと途切れる。
そして、すぐに後悔に苛まれた。
これで、彼が肯定したら、と既に音にしてしまった言葉によって、怖いくらいのが恐怖が身を襲う。
昨日だって、さっくんは桃井を好きじゃないとは言わなかった。
…オレは、涼よりさっくんの方が大事だって伝えたのに。
布団に顔をつけて、隠す。
さっくんは、オレが売ったって言ってた。
まるでオレにとって自分が”モノ”でしかないっていうような言い方をした。
家族なのに…いつも、自分は物だと言う。オレの道具だと言う。
捨てないで、と彼を作った主人であるように、オレに乞う。
モノなんかじゃ、ないのに。
ちゃんと、ひとりの人間なのに。
それに比べて、桃井といる時のさっくんは、楽に生きてられてるように見えた。
『香織』『咲人』って、お互いを名前で呼びあって、
桃井のことをわざとらしく異様に崇拝してる素振りで褒めちぎるわけでもなくて、
…うまく言葉にできないけど、オレといる時ほど不自然な感じは…しなかった。
そもそも、だ。
さっくんはモテるんだし、本当は恋人がいてもおかしくない年齢だ。
今回の出来事がきっかけで、たとえオレより桃井といることを望んだとしても、自然な感情の流れなんだろう。
その感情が芽生えてしまったから、余計に怖くなったんじゃないだろうか。
他の女の人に主人に対するもの以上の感情が芽生えたことで戸惑い、家族であるオレに捨てられるかもしれない、と。
"夏空、様…っ、"
そう考えれば、雨に濡れながらもあれだけ泣いていた理由の説明がつく。
7
お気に入りに追加
299
あなたにおすすめの小説


飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?


【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる