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甘くて、痛くて、泣きたい
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……………
「…ぅ、ん…?」
気づいたら、眠っていたらしい。
ベッドのもふもふした柔らかい感触を身体の左側に感じた。
あれ、いつの間に寝たんだっけ、とぼんやり夢心地のまま、重い瞼を持ち上げる。
…と、
「…っ、ぅお、?」
目の前に、さっくんの憎らしいほど整った顔が見えて、心臓が異様に跳ねた。
眠っているらしく、瞼を閉じている。
オレを抱きしめたままの体勢で規則的な呼吸をしていた。
明るめの黒髪がさらりと垂れて、その閉じている瞼の上や頬に軽くかかっている。
(…白雪姫…)
…えっと…確か、キスしたら永い眠りから覚めるってやつだっけ。
さっくんの寝顔を見ていたら、唐突にその童話を思い出した。
そしてなんで寝てるときまでいつもスーツなんだと言いたくなりながら、ついでに自分も制服からパジャマに変わってることを知る。
心なしか、シャンプーとか石鹸のいい匂いがした。
……ついでのついでにさっくんの匂いもくんくんしてみる。
「ふむ。よし」
良い匂いになってる。
いちごは消えた。いつも通りだ。うむうむ。よかろう。
よいしょよいしょと背中に腕を回して、ぎゅうって正面から抱きついてみる。
「うへ、うへへ…」
ひたすらぎゅーってする。
さっくんだ。さっくんの感じだ。
だらしない声を漏らしながら、ねこみたいに首筋とか胸元にすりすり頭と頬をこすりつけてみた。
すっごく良い匂いがする。それに、自分でも驚くぐらい安心した。
布団もかかってて、二倍あったかい。
「ぬあー」
ぎゅー、ぎゅううう、変態のごとくさっくんの感触を堪能する。
眠っているらしいさっくんは、当然ながらオレの思うまま、されるがままだ。
どれだけぎゅうってしても起きる様子がない。
「……ふむ」
そう思ったら、…今なら何をやって良い気がした。
じーっと間近で見つめても、…綺麗な肌だった。しみひとつない。
…本当に人形かロボットなんじゃないだろうか。それかさっきの童話のやつ。
きっとあの王子だって、眠ってる白雪姫がとんでもない美人だったから口づけをしたんだろう。
「…ふふん。白雪姫なら、この方法で起こしてやろう」
得意げに笑みを浮かべる。
まだねぼけた感じだったからか、声がかすれていた。
「ん、しょ」
…起こさないようにさっくんの肩に手をおいて、少しだけ目を伏せた。
これいじょうないほどスローな速度で、ゆっくり、ゆっくりと唇を近づけていく。
ドキドキ、ドキドキと煩いくらいに心臓が早鐘を打ち、いまだに起きないぐっすり眠り姫なさっくんと距離を縮めた。
いつ起きるか、と緊張が胸の鼓動を速める。バクバク、バクバク。
唇が触れる寸前、息を止める。ちょっとだけ、動きも止める。
(…う、心臓がはれつする…)
バックンバックン音を鳴らす胸に、本当にこれで起きたらロマンチックだなとか考えつつ興奮しながら、唾をのむ。
…それから、目を閉じて
「――………」
静かに、唇を重ねた。
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