貴方は俺を愛せない

涼とお家で隠しごと

23

（なに、言ってるんだよ。ばか）


泣きたくなった。
こっちが、声を上げて泣きたくなる。


「…ぅ、なん、だよ…っ、どうしたんだよ、好き、って、大事だって、言ってる、のに、捨てるわけないだろ…っ、？」


ピアノ線みたいに震える喉のせいで、言葉に詰まる。


「…、…っ、貴方がいないと、俺、は、」

「…わかったから、大丈夫、大丈夫だから。すてたりしない、だから、さっくんが、泣くと、オレ、も、…っ、」


感情が伝染して、どうしたらいいかわからないほど、瞼の裏が熱くなる。

うああまったくどうしてくれるんだ、と既に涙ぐみながら、その後頭部に回した手で、それでもなんとか慰めたくて、彼の濡れた髪をよしよしと撫でた。


「…っ、」

「さっくん、大丈夫、大丈夫…」


ぎゅってして、撫でて、できるだけ静かな声をかける。
さっくんが少しでも安心できるように、…少しでも、落ち着けるように。


………

……………………


どれぐらい長い間そうしていただろうか。
声をかけながらよしよしって、ずっとそうしていると、次第に…彼の震えがおさまっていくのがわかった。


「ね、夏空様…」

「…ん、なに…？」

「…夏空様は、温かくて、優しいですね…」


ずっとオレの首もとに縋るようにして顔を埋めていたさっくんが、目に涙を滲ませ、…困ったような表情で包み込むように抱き締めてくる。
そして、これ以上ないほど嬉しそうに微笑んだ。
腕の中にいるオレを見つめて首を傾げれば、その綺麗な黒髪が微かに揺れる。


「…本当に、俺のこと好きですか…？」

「当たり前だろ…っ、」


敬語であることをのぞけば、まるで小さな子どもみたいに不安げな問いかけに、こくんと頷いた。


「他のどの人よりも…？」

「そうだ…っ、！」


比べるまでもない。
即答すれば、心底安堵したように目が細められる。頬をふわりと緩め、柔らかい雰囲気でぎゅうってされた。

よしよし、髪を撫でられ、もっともっとぎゅうぎゅうされる。


「…凄く、嬉しいです。ありがとうございます…夏空様…」


感謝の言葉とともに涙で濡れてるオレの目尻に唇で軽く触れられ、びくりと身体が震えた。


「…っ、ん、」

「何も知らないのに、…だからこそ、優しくて、綺麗で、可愛くて、」


手のひらで擽るように、撫でるように頬から髪に触れられ、その手の感触に心地よさを感じていれば、


「…残酷で、愛しい…俺だけの御主人様」

「…、ぇ…？」


ぽつりと耳に届いた低く掠れた声に、驚く。

それから、…もて余すほどに愛しいものを見つめるような目で、オレを見つめて、


「俺も、貴方が大好きですよ」

「…っ、」


そう囁きながら、頬に手が添えられ、ゆっくりと吐息が重なった。

唇をやさしく啄み、ゆっくり押しつけては静かに離される。
それを１、２回繰り返し、そして、微笑みが消えた。

真剣な瞳と、ゾクリとするほど色気のある表情で見つめられ、どきりとする。


「は、ん、ん…っ、」


吸い寄せられるみたいにもう一度唇がくっつき、息を吸うために口を開けば、ゆっくりと舌が差し込まれた。
上顎を擽り歯列や舌の表面をなぞるように刺激されて、オレもその動きに必死に応えようとおずおずと舌を出し、相手の舌先に当てる。

そうすればその思いに返事をするように段々と密度を増し、深くなっていくキス。
自然と息が乱れ、混ざる吐息と唾液の量が増える。
頬が、身体が熱をもって、心臓が速くなった。

けど、


「…っ、」


（…また、…この、…匂い…）

徐々に大胆に舌を吸ったり、絡めたりを繰り返しながら、鼻腔に感じる…保健室でキスした時よりももっと濃くなっているイチゴの香りに…眉尻が下がる。