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涼とお家で隠しごと
20
しおりを挟むオレの首もとに顔を埋めるようにしてくるから、濡れた黒髪からその首筋に雫が落ち、更に密着しているオレにも同じ場所に一緒に雫が伝っている。
抱き締められてるこっちまで寒さと冷たさで心臓がうぎゃぁってなりかけそうになった。
「…っ、」
「ぇ、あ、…さっくん…?」
……泣いてる。
ずっと、ただひたすらに声をおさえながら、震えながら縋るようにオレを抱き竦めて涙を流している。
最初を思い出せないほど長い間一緒にいたはずなのに、こんなのは初めてだ。
いつも余裕綽々で、優雅に微笑んでて、何でもさらっと躱してしまう。
そういうさっくんしか、見たことなかったのに。
「…むふ、ふ、もー、なんだよ。あれ、あれだ。そういえば、桃井はどうしたんだよ。この浮気魔め」
だから、これほどまでに取り乱して、動揺を露わにするさっくんに、こっちもびっくりしすぎて思わず茶化す言葉が口を出てきた。
ただでさえ雨でびちゃびちゃなさっくんの身体が、抱きしめられているオレの身体、服を一気に濡らす。
加えて、涙が更にそこに染みこみ、重みを増している気がした。
堰を切ったように泣き続けて…まさに号泣、という言葉が相応しい泣き方だ。
「なんで、そんなに…あ、!オレがさっくんを売った云々のことで泣いてるのか」
それしかここまでさっくんが泣く理由が思い当たらない。
「けど、そもそも売ってないし、べ、べべべ別にオレはどっちでも構わんが、さっくんがどーしてもオレのもとに戻ってきたいっていうなら、」
やはり正直に戻ってきてくれたら嬉しいとはさっき同じような意味の言葉を言えたくせに、今更照れすぎて言えなくなってしまった。
べべべ、別に、ってなんだよ。どもりすぎだろ、オレのヘタレ。
「今すぐに力ずくで奪い返してやらんことも…」
「っ、…っ、」
「ない、が、………」
気のせいじゃ、ない。
どれだけ言葉を費やしても、何かがすれ違っている。…さっきも感じたことを、また思い知らされた。
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