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涼とお家で隠しごと
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しおりを挟むそっと、労わるように頬に触れた。
…透明な水が伝う肌は、…血の気が引いているのかと思うほど白くて、まるで氷でできてるみたいだった。
拒まれない、ってことに安堵している自分に、前は当たり前にやっていた今の行為でさえ結構緊張していたことに触れてから、気づく。
(…こうしてると、桃井とのことも――とのことも、全部なかったみたいだ)
何か違和感を覚えて眉を顰めるオレに、
ずぶ濡れのさっくんが、震えているように、ふわりと儚い微笑みを浮かべた。
「良く、出来ましたね」
「…ぇ?」
予想したどの言葉とも違って、一瞬反応が遅れる。
いい子いい子、と小さい子を褒めるように、呟かれた台詞。
…何も、さっくんにそう言われるようなことはしてないのに。
褒められている、…はずなのに、そのセリフには何か称賛の意味とは別の、否定的なものが滲んでいるように感じた。
どうして、と戸惑うオレを見下ろして、嬉しそうに頬を緩める。
「俺が教えた通りに、貴方は動いてくれた」
「…っ、うごいた…?」
わからない。
何を言ってる?
…さっくんは、オレに、何を教えた?
なんとなく、不安と、恐怖に駆られて頬から手を離せば、今度はその手を掴まれた。
腰を少し屈め、冷たい表情で距離を縮めてくるさっくんに、びくっとして身を引く。
怯えるオレの様子を見据えて、でも、だからといってその軽く伏せた長い睫毛の下の目に、温かさなんて欠片も生じない。
「初恋ごっこは、”楽しかった”ですか?」
「…っ、」
不機嫌に、詰るように、
…唇が、吐息が、耳朶を掠めた。
ドクン、と鼓動が脈打つ。
「……ぁ、」
冷たい。
頬を、撫でるように手がなぞる。
「こうやって…他の男に触られて、」
「…っ、な」
軽く睫毛を伏せたさっくんの整った顔が、…唇が、吐息が触れるほど…近く、て、
…少し焦らすように間をおいて、そっと重なった。
「ん、んん…っ、」
閉じた唇を割って、舌が差し込まれる。
反射的に逃げようとした舌を、優しく、だけど少し強引に捕らえられた。
触れるだけ、安心させるように、少し離してはまたゆっくりと重ねて絡められる。
……全然、違う。
『何か』と…誰かとの行為を想起し、比較にならないほどの官能。
すぐに頬が熱くなって、身が震える。
「…好き」
「……ッ、」
何度か繰り返した後…唇が離れ、ふ、と吐いた息まじりに零された声音、
切なさを滲ませた真剣な表情に、「――っ、さ、っく、」呼吸をするのも忘れて、目が離せなくなる。
「…なんて、愛の言葉を囁かれて、」
「ひ、ぅ、」
手を絡めとられ、肌を密着させるように指の間に雨でぬれている指を差し込まれて、すーっと肌をなぞる感じに、嫌じゃない…むしろ心地よく感じてしまって変な声が漏れた。
「……身体を繋げて、」
「…っ、…」
そうされながら続けて言われた言葉に、さっきのは本気じゃなかったのだと気づいた。
どこか遠い意識のなか、理解し、失意する。
……ただ、オレと、『涼』の行為をまねて、同じように振舞っているだけだ。
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