99 / 308
学校とさっくんと桃井
20
しおりを挟む桃井が女子で、体重が軽いからっていうのもあるだろう。
けど、それでもびっくりするくらい簡単にお姫様だっこされ、桃井が驚いたような、ほうっと見惚れているような表情をした。
体勢を安定させるために、ぐ、と手でより強く抱き寄せられて、顔が近づいたせいか、身体が密着したせいか、その頬が更に赤に染まる。
それから、すぐに嬉しそうにさっくんの首元に腕を回して、抱きついていた。
「……っ、」
ドク、と心臓がうねる。
遠くでその一連の流れを見た女生徒達から、ぎゃーーーみたいな黄色い声が運動場で跳ね上がった。
「青島先生」
「あ、え、は、はい、…っ、」
名前を呼ばれた先生は、まさか自分に対して今この状況で何か言われると思っていなかったらしい。
大げさなほどにびくっとして、首がもげる勢いで頷いた。
「桃井さんの気分が優れないようなので、保健室に連れていきます」
「わ、わかりました」
「…授業のお邪魔をして、申し訳ありません」
謝罪とともに、心底すまなそうに瞼を伏せたさっくんの視線が、ちらっと他の生徒の方に向けられる。
「あ、いえ、それは勿論構いませんが、」
構わないと言っている先生の顔は、言葉とは裏腹に確実に狼狽えていた。おろおろしていた。
ぎゃーぎゃーうぎゃあああと騒いでいる皆の熱は収まりそうにない。
…きっとこの時間中、皆は授業どころではなくなるだろう。
「…宜しくお願い致します」
「へ、あ、は、はい…」
たどたどしく受ける先生。
何を宜しくされたのか、最早ひとりでこの騒ぎをどうにかできるのか、先生に同情するしかない状況だった。
「ふふ、流石咲人!本当の王子さまみたい!」
「…っ、動くと危ないですよ」
「咲人なら私を絶対に落としたりしないから大丈夫だもん!」
満足そうな笑顔を顔いっぱいに浮かべ、ぎゅうっと首元に抱き付く桃井を抱きかかえたまま、白衣を翻して歩いていくその姿を呆然と見送る。
………目に映すだけで
声をかけることすら、できなかった。
5
お気に入りに追加
300
あなたにおすすめの小説



飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる