貴方は俺を愛せない

和泉奏

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ご主人様と執事とは

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なんなんだ。まったく。


「さっくんのドМ!」


ぴしっと指を突き付け、チッチッチ、わかってないな。と舌を鳴らした。


「男でドМは女受けが良くないんだぞ」

「女受け、ですか…?」

「うむ。最近学校でどうしたら女にモテるかを友人と話してたんだけど、」


そろそろ年頃だし、
付き合ってみたいしとかで、女にモテるためにはどうしたらいいか考えようと、男共がチームになって毎日会議を行っている。


「その時に聞いたんだ。ドМははぁはぁしてて女子からするとドン引きらしい」


つい先日聞いたばかりの豆知識をどやぁと胸を張りながら披露してみせる。


…と、



「っ、はは…っ、」

「……む、」


…なんでそこで笑うんだ。

オレはさっくんの性癖をだめだ、と否定するようなことを言ったのに。


だからしょんぼりするか怒るかしてもおかしくないはずなのに。


「…っ、…っ、」


しかし予想に反して、何故か笑いを堪えるような表情で(全然堪えられてないし笑ってるけど)口元に手を当てて笑みを零している。


…だが笑いを意図していないところで、そこまで爽やかに笑われてしまうとなんだか不服な気持ちになるのが人間の心理というもので、


「…何がそんなに面白いんだよ」


ぶすっと不機嫌に顔を歪ませ、じとっと睨むように見つめる。
と、目尻の涙を拭いて笑いの余韻を残しながら、オレの視線に応えた。


「相変わらず、夏空様は可愛らしいご主人様でいらっしゃるなぁと…改めて実感しておりました」

「……っ!?」


蕩けそうな程甘い笑顔で、さらっとそんな口説き文句みたいなセリフを吐く執事に、ぎょっとして目を瞬く。

(…お、女を堕とそうとしてる男みたいなことを…)

昨日『女の子もキュンキュンしちゃう。男の子に言われたい言葉200選!』って雑誌でこんな感じのシチュエーション見た。


「嗚呼、お顔が真っ赤になられてしまいました」

「う、ううるさいぞ!」


かぁっと赤くなる頬を隠すように目の前でぶんぶん腕を振る。
慌てれば慌てるほど余計に熱くなってきている気がするから、悪循環でしかない。


「そもそもだな。そういう心臓がドキッとしそうな言葉は女に壁ドンしながら言うのがいいんであって、オレみたいな男に言ってもどうしようもなくてだな!」


バッと意味もなく立ち上がる。
そして頭の中を冷やすために説教じみた感じで違うぞ、と語尾どころか全体を強くして声を張り上げた。


脳内シミュレーションでは、
ここでさっくんが「はい。以後気を付けますね」とかなんとか言って笑顔で頷く。


そしてオレが「うむ。良かろう」と許可を出す。それで終わり。みたいなイメージだった。


しかし、さっくんはどうしてか少し俯いたまま考えるような表情をしている。

(…な、何か変なこと言ったか?)

自信満々に言って、脳内シミュレーションも済ませただけに不安になってくる。

「…さっくん?」と顔を覗き込むと、その時に丁度顔を上げたさっくんと不意打ちに目が合った。
うぎゃ、と変な声が漏れそうになるのを必死に抑えると、首を傾げるようにして問いかけてくる。



「…例えでも”心臓がドキッとしそうな言葉”、と表現なさったということは、夏空様は俺の先程申し上げた言葉にそれほどの好感を抱いて下さったのですか?」

「…っ、」



ぼん!
図星を突かれて、顔から火が出た。
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