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『どんな気持ちだ?愛する者同士を引き裂き、理を捻じ曲げた者よ』

「……」


直接脳内に響いてくる声は、愛しい彼のモノではない。

代わりに、颯真を抱き締める腕に力を入れ、縋るように身を預けた。

圧倒的な安堵と幸福感。
後悔なんて、微塵もしていない。

…幸せだ、幸せだ、幸せだ…ああ、良かった、間に合った、と心の底から込み上げる感情の波に笑みを零した。


俺は颯真が好きだった。

ずっとずっと好きだった。俺には颯真しかいないのに。


それを、アイツが奪っていこうとした。
俺が持っていないものを全て手にしていて、それを当然だとでもいいたげに笑って幸せに生きているアイツが、颯真まで俺から取り上げようとしたから。

だから、悪魔と契約をした。

颯真が俺を愛するように。颯真が俺を一番だと思うように。

大きな、けれど颯真と想いを通じ合えるのならば些細な代償と引き換えに契りを交わした。

小説でよく見るバカな主人公のように、相手に想ってもらわなければ意味がないなんて言わない。

俺だけでは彼を手に入れられない。どう足掻いても、望みは叶わない。

綺麗ごとだけでは幸せになんかなれない。

どんな手段でもいいから、颯真が欲しかった。奪われたくなかった。


「…楓」


耳元で囁かれた名前に、ほんの僅かに身体を離す。

少し背の高い彼の熱っぽい瞳には、俺が映っている。

俺だけを見ている。

他ではない、俺を好きになってくれている。

アイツじゃない。


……俺、だけ。


見上げていると、颯真が愛しい相手を見るような眼差しで微笑んだ。

近づけられる顔に、そっと目を閉じる。
吐息とともにそっと触れてきた唇に、どうしようもないぐらい…救いがたいほどの歓喜が全身を震わせた。


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