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彼の愛しい人
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しおりを挟むはぁーと息を吐いて、早く浴場を見つけようと顔を上げる。
と、
微かに隙間の開いている和室の障子。
その部屋の前に、誰かが いた。
「……そうだ。屋敷の人間が全員が消える、なんてそんな馬鹿な話があるか」
屋敷の慣れない空気感と、まさか人がいないのではないかという憶測のせいで、無意識にうちにかなりびびってしまっていたらしい。
散々歩き回ってしまったせいで二度と風呂に辿り着けない気がしていたから、聞ける相手を見つけたことに身構えていた筋肉が自然と緩む。
(……少年、…か…?)
少しずつ近づいていくとわかる。
この人も結構値段の高そうな黒い着物を着ている。
色素の薄い、黒というよりやや茶色がかった髪の毛は少し乱れているように見えても質が良さそうだった。
……使用人、ではないだろうから態度には気をつけないとな。
もしかしたら蒼様か澪様のどちらかのご友人かもしれない。
背丈や雰囲気からそれぐらいの年齢のだろうと察する。
いや、それかこの少年もどこかの良家の御令息の可能性もあり得るな。
明らかに僕ら雇われた者とは身なりが違う。
横顔が見える距離になると、……『彼』もかなり綺麗な顔をしているのが見て取れた。
先ほどの蒼様にも圧倒されたが、ここでもまた同じような気持ちになるとは思わなかった。
(……類は友を呼ぶとはこういうことか)
容姿が良い人間の周りには同じく、整った外見の人が自然と揃うということなんだろう。
考えるまでもなかったが、今日初めて見た少年であることからも、やはり使用人ではないことが明白になった。
だが、緊張している場合ではない。
彼の優れた容貌に対して引け目を感じているほど余裕のある状況ではない。
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