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鳥籠の雛
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しおりを挟む…いっそのこと、昔に。
出会ったあの時に戻りたい。
「おれのこと嫌いなら、そう、…言ってよ…っ、」
くーくんの胸にぼたぼた涙を零しながら、顔を手で覆って叫ぶ。
もし嫌われたならいつからだった?
ずっと前から?
もしかしてお風呂に入るって言ってたあの時にはもうすでに嫌われてた?
……おれのこと、もう好きじゃなかった?
「こんなあてつけるみたいに澪とした後に帰ってこなくても、勝手に死ぬって言ってるのに…っ、!」
地獄だ。
ここにいるのは、死刑が決まっているのにその日がいつかいつかと、生きた気がしない心地で待たされるだけの囚人。
咽び泣いて、やり場のない悲しみをぶつけるためにその身体を叩く。
「……酷い、くーくんは…酷い、…っ、ばか…っ、」と詰る言葉はきっと意味なんかない。子どもみたいな罵倒にも、価値なんかない。
「っ、…おれの、きもちわかってて、こんなの…っ、」
ぽたぽたと落ちた涙は、行き場のない気持ちの先を示しているように誰にも届かなくて。
……じゃあ、出ていけばいい。
鎖で繋がれてるからって言い訳をして出ていかなかったのは自分だ。
本当はやろうと思えばくーくんの手を借りなくても死ぬことなんてできた。
…だって、幾らでも手段はあるんだから。
なのにそれをやらなかったのは、
それをやらずにくーくんに選択を委ねたのは、…おれが、まだくーくんに縋っていたかったから。
…今でも自分を特別だと、思いたかったから。
(…ばか、みたいだ…)
微かに微笑んで、自分の下にいるくーくんに手を伸ばす。
「…くーくんがおれに意地悪するなら、……おれもくーくんが嫌がることしたっていいよね…」
その頬を包むように優しく手を添えて、キスをした。
さっきほど乱暴じゃない。
くちゅ、って舌が交わり、…熱い吐息が重なって、お菓子みたいに甘くて蕩けるような行為。
ゆっくりと丁寧に舐め、唾液を交換し、身体が熱を帯びるほど濃密に。
…好きって、大好きな人に想いを伝える感じに、…きっと、そういう対象じゃない相手にされたら心底嫌になるだろうやり方。
「ふ…んん…っ、」
「…っ、」
恋人同士がするような口づけをして、
…そうしながら、これをさっきまで別の人としていたのかと思うとやっぱりこれじゃ済ましたくないと思う。
「ね、…澪ともしてたんでしょ…?おれにもして…?」
クチュ、クチュ…、って涙で見えない視界で、必死に重ねた唇や舌から伝わる感触だけが今のおれのすべて。
……おれが感じられるくーくんの、世界のすべてだった。
「…キス…しない、って言った、のに、…っ、おれとの約束も、…破っちゃう、くらい、…大事な人なんだもん、ね…」
おれだって破ったくせに。
(…あの約束をした後、おれだって、破っ、た…っ、)
自分で自分を傷つける言葉を吐いて、再び唇を合わせながら……泣き崩れたいほどの悲痛の叫びが胸に押し寄せて心を壊す。
涙を流しすぎたせいで身体が痺れていて、今している行為の感触さえも最早感じられなくなってしまいそうだった。
…だから、
もっと、澪にしたのより濃く、強く、激しく。
……二人でこのまま窒息して死ねたらいい。
そうだ。
他の人にとられるくらいなら殺して、一緒に死ねばいい。
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