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壊れて、
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しおりを挟むもう遅いのに、こんなこと言っても、もう見てくれることなんてないのに
みっともなく縋りつく。
お願い、行かないで。離れないで。
「澪よりおれを、」
上擦った声が、喉に落ちてくるしょっぱい雫が
「…好き、って、言っ」
いいかけた言葉は、涙に詰まって音にならなかった。
…というより、おれの声を遮るように重ねられた唇に、驚いて思わず呼吸を止める。
反射的に掴まれている手首に力が入り、…けど、すぐにそんな気も起こらなくなった。
「…ん、」
(…くーくんの、感触、)
受け入れるように瞼を閉じ、…涙が途方もなく溢れる。
…それは優しく触れるだけで、少ししてゆっくりと離れていく。
「……――、ぁ、」
目を開ければ…軽く睫毛を伏せた彼の真剣な顔は、見惚れるほど綺麗で
ふ、と息をしようとして再び重なる。
好き。
好き。
大好き。
なのに、苦しくて、痛くてたまらない。
くーくんには好きな人がいるのに、こんなことで喜んじゃだめなのに。
「ん、んん…っ、」
舌が絡み合う。
次第に熱が入ってくると手首を掴む力が緩む。
その首にまわした腕で抱き寄せ、更に深く交わった。
甘くてやわらかいお菓子を奪い合うみたいに舌を舐め合って、息を乱して、
(…離れたく、ない…)
ずっとくっつけていたい。
存在を感じていたい。
壊れちゃいそうな心臓の音に、夢なのか現実なのかわからなくなる。
口の中が甘く痺れるほどキスを繰り返し、…肩を上下させながら、離れていく体温を求めてしまおうとする自分を嫌悪する。
切なくて苦しいほどの熱が身体を犯し、…静かに身を起こした彼を滲んだ視界で見上げる。
「…良かった」ぽつりとつぶやかれた声は少し掠れて、心底嬉しそうに、安堵の色を滲ませていた。
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