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壊れて、
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しおりを挟む怖くて、
いつも優しいはずのくーくんが凄く怖くて、
それを実感したら何かが身体の中でおかしくなりそうだった。
「っ、やだ…っ、くーくん…!なんで、なんでおれに…っ、」
そんなに他の人とキスさせたいの?と言いかけた声は涙に溺れる。
前に『俺以外とキスしないで』って言って約束させたのはくーくんなのに。
そう言ってくれたの、おれのことを好きだからだって思って、凄く嬉しかったのに。
「…なんとなく、…もう一回ソレとまーくんがキス以上の行為をしたら…何か別の感情も戻ってくるのかなって思ったから」
「…きす、いじょう…?もう、いっ、かい、…?」
わからない。
そんなそれ以上、なんておれは知らない。
震えて、ただひたすらに怯えるおれを見かねたのか、こっちに近づいてくる。
そしておれの濡れている頬を指でなぞり、微かに笑みを零すくーくんは、ひく、ひくと泣きじゃくり続けるばっかりのおれを見て…困ったような、持て余したような顔をする。
「…ね、まーくん」
「…っ、くー、く…」
さっきより優しく呼びかける声に、ちょっと嬉しくなって、小さく震える唇で応えた。
もう一度、さっき取ってもらえなかった手を伸ばすと、今度は気遣うような仕草で指を絡めるようにしてきゅ、って繋いでくれる。
大好きな体温。手の感触。…冷たいけど、おれの手より大きくて、なんだかあったかくて酷く安心する。
泣くのが少しだけ収まっても、まだ床にぺたんと座り込んだままのおれの前にくーくんが膝をつく。
そうすると彼の浴衣や髪が揺れ、ふわりと良い匂いがした。
そして、
「…へへ、くーくん、だ…」
それらの香りに、体温にほうっと安堵の息を吐く。
そして、その繋いだ手を頬に寄せて、へらりと笑った。
そんなおれの反応に、どうしてかくーくんはその綺麗な顔を微かに歪めた。
さっきよりもずっとずっと痛そうな顔をする。
「どうして、こんな場所にいるの?」
「…っ、」
静かに問いかけるように囁き、おれの頬に、唇に、髪に触れる。
それは、まるで本当におれが今ここにいるのかってことを確かめてるみたいだった。
(…どう、して…)
おれの方が泣いてるのに、どっちかっていうとくーくんもなんだか泣きそうに見えて。
その微かに苦しみに揺れている瞳に見つめられ、おでこがくっつきそうなくらい近くで吐息が触れる。
「…お風呂で、待っててくれるんじゃなかったの?」
「……ごめ…っ、ごめ、ら…、う、うう…っ、」
またくーくんに嫌な思いをさせた。怒らせるようなことをしてしまった。
はらはらと大粒の涙がこれでもかってほど流れて、息ができなくなってくる。
(…だって、)
だって、ちゃんとおれはお風呂場で待ってようとしてた。
くーくんと今から昔みたいに洗いっこして、髪の毛乾かしあって、
…その後はいっぱい…えっちなことして、…くーくんと一緒に幸せだなーって笑うんだって。
「っ、ぅ…っ、ぅ、ぇ゛、え…」
そんな夢を見て、
ちゃんと、待ってたんだよ。おれ。
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