手足を鎖で縛られる

和泉奏

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こてんと首をかしげ、どういうことだろうと頭を悩ませた。
戸惑いを隠せないおれに対し、そうなの!と手を叩いた彼女は少し荒い息を吐きながらにこやかに続ける。



「お医者さん。私が彼と、とーっても大事な用を済ませてる間に、是非相談にのってもらったらどうかなって。真冬、最近悩んでるみたいだったから」

「…おいしゃさん…」

「真冬も真冬のお母様もよくみてて親しいからって自分から志願してくださったの。遠野さんっておっしゃる方なんだけど…」


知ってるでしょ?と目を輝かせて覗き込んでくる瞳。
それから逃れるように顔を俯かせ、むぅと眉を寄せて考え込んだ。


「とおの、さん」


記憶を一生懸命に探るけど、やっぱりくーくん以外は全部顔が真っ黒だった。

ぼやーとした感じで、もざいく的なものがかかっている。
そのどこかにいるのかもしれないけど、…いまはわかりそうにない。

…でも、澪がそう言うってことは多分お世話になったことがある人なんだろう。
ふむ、と頷いた。


……しかし

納得した、とはいっても、


「ね、会ってあげてくれない?」

「…っ、ぁ、えと、」


こっちに問いかけてくる澪に、慌ててしまう。
…どうしよう。

お医者さんだったら、もしおれがその人のことを覚えてなかったら尚更病気扱いされたりしないかな。

(…うう、それはやだな…)

まだくーくんと一緒にいたい。

…でも、さっきの澪の言葉が本当なら、
せっかく会いに来てくれたらしい人を自分の都合で追い返すわけにはいかない…とも思う、し、

「……」

瞳を伏せ、少し悩んだ後…こくんと頷いた。


「…うん。……会ってみる」

「そっか!良かった!」


ほうっと安堵したように微笑み、ぎゅっと手を握られた。
余程嬉しかったらしく、掴まれた手ごとぶんぶんと上下に揺すられる。
その勢いで脳がシェイクされそうだ。


「わ、…っ、」


包帯を巻いている両手を強く握られたまま揺らされて、結構傷に響いて痛い。
ジャラジャラと鎖も一緒に揺れ、微かに開いた傷からはじわりと包帯に血が滲んでいそうな激痛がびりっと掌に起きた。


「彼、真冬のことをずっと心配してたみたいだからきっと喜ぶわ」

「心配、してた…?」

「ええ。以前にも真冬が精神的によく不安定になってたから余計に気になってたんだって」

「……そう、なんだ…」


現実感は全くなかった。
けど、澪の声は嘘を言っているようには思えなくて。

…それにそうやっておれのことなんかを少しでも気にかけてくれた人がいるんだと思うと、やっぱり嬉しくなってしまう。

(…心配、してくれてたんだ…)

そのお医者さん、一体どんな人なんだろうってちょっと気になった。
思い出せないのが残念だな。


「…痛、」

「澪?どこか怪我したの?」


手を握っていた澪が、突然呻いて顔を歪めた。
同時に離れる手。


「ちょっと強くされすぎちゃって、ねぇ真冬…見てくれる?」

「?」

(…”されすぎちゃって”?)

お願い、と媚びるような声に、疑問を抱えたままこくりと頷いた。

「うん」

「ここ、なんだけど…」

促されるまま、彼女が浴衣と髪をよけた場所に目を向ける。
さらりとして濡れた黒髪は胸の方に垂らされ、その結果白い首筋が覗いた。

さっき目を塞がれていたせいか、相変わらず視界はまだぼんやりとしてて見づらい。
だからかなり顔を近づけ、じいっと目を凝らした。


「んー、どこだろ」

「…真冬?そんなに顔を近づけなくても見えるでしょ?」

「……」

「……貴方、…もしかして」

「――、あ、」


…首筋のちょっと横に、蚊にさされたような跡があることに気づいた。

痣のように円を描いている。
赤く染まって、まるで今ついたばかりのような…そんな真新しい朱。

それから、言葉を被せてしまったことに気づき「何か言いかけた?」と聞けば「…なんでもないわ」と秘密事を企んでいる子どものように笑いを含んだ口調で返された。

クエスチョンマークを浮かべつつ、どこか見覚えがあるその跡について頭を捻らせていると、
…不意に、記憶の中で重なる。


「(…でも、)」

もしそうだとしたら、澪がおれに見せてきた理由はなんなんだろう。
痛いとまで言っておれに見せてくる、理由。

いや、本当に怪我をしたのかもしれない。
させられたのかもしれない。

そう考えないと、良くない考えばかりが浮かんでどうにかなりそうだった。

「……、」

嫌な汗が滲む。
心臓がドクドクと変に速度を増す。

…だって、

その傷は殴られたにしては小さすぎて、蚊が吸ったにしては大きすぎる形で、


…――それに、昔お父さんが女の人によくされてた… ”アザ” みたい で


おれが、くーくんとつけあったりする、のにもすごく似てて、

だから


(………キス、マーク…)


にしか、みえない。


「っ、」


脳内に浮かんだものと一致していることに気づき、硬直する。
彼女が”そう”だと言ったわけじゃない。
なのに、そうだとしか思えなくなってきている自分に一瞬、上下の世界が反転したかと思うほどの錯覚に襲われた。


「…痣になってない?」


けど、彼女の声で固まった脳はハッとしてなんとか言葉を返そうとのろのろ動き出す。
パニックになっているせいで、そのやけに弾んでいる声を不審に思う余裕もなく、掠れた声を吐いた。


「…ぁ、ちょっと、なってる、かも」

「そう。ついさっきつけられたばかりなんだけど、…ああ…跡が残ったら嫌だわ」


そう言いながら、彼女はふふ、と何故か酷く嬉しそうに笑っていた。
その照れを含んだ幸福そうな表情は、くーくんに向けられていたものと

…あまりにも一緒で


「――ッ、」


ごく、と乾いた喉を上下させる。
機能を遅くさせている脳内が、視界が、揺らぐ。





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