648 / 842
現在
72
しおりを挟む嫌がらないでされるがままになってくれているくーくんにまた嬉しくて、結局甘えたい気持ちに負けて耳の縁に噛みつく。「…っ、」噛んだ瞬間に小さく漏れる彼の声。
びくっと震えたのが伝わってきた。
「…あのさ、まーくんはそうやって自分が傷つけられることを軽く捉えてどうでもいいことみたいに言うけど、」
「だって、別にくーくんならいいもん」
「良くない」
おれの返答が気に入らなかったらしくムッとしたように否定する声。
…拗ねたように「危機感が足りない」という言葉とともに、べりっと身体を引きはがされる。
こっちも信じてくれないのと引き離されたことでむむ、と眉を寄せて「いい!」「良くないって」「いいって言ってるだろーー!!」無駄な応酬を繰り返した。
結局は根負けしたくーくんが「あーもう、」とため息を吐いてそのやりとりは終わった。
「たとえ寂しいって思ったとしても、屋敷内にいてくれれば、…生きていてくれれば、いつでも会えるから。…絶対にこれ以上、俺自身の手でまーくんを傷つけることだけはしたくなかったんだよ」
「……」
「だからなるべく近づかないようにした方がいいってわかってるのに、」俺の努力を全部無駄にしてくれたな、困ったまーくんだ。みたいな感じに言われて、
「う、」まるでおれの方が悪いとでも訴えたそうな言い方に怯むと同時に全力で拗ねたくなる。
そんなおれの髪を撫でて、彼は眩しそうに目を細めて微笑んだ。
「まーくんってば、冷蔵庫に作り置きしておいたご飯も食べてないし、風呂も部屋についてるのに入らないでずっと俺のこと待ってるし」
「…だ、だって」
「挙句の果てには栄養不足で倒れてるから、…見ていられなくなって、結局戻ってきちゃった」
そして「ああもう、本当何やってるんだろう俺」と持て余したようなため息を吐く彼に、じわじわふわふわとこれ以上ないくらいに心が温かくなっていく。
いつものくーくんだ。
くーくん、
くーくんなんだ。
実感する。
…その表情を見て、…やっと、本当に彼なんだと実感できる。
「へへ…っ、嬉しい…!ありがとうくーくん。来てくれて、ありがとう…!」
「…っ、」
「だーいすき!」
がばっと今まで以上に強く抱きしめて感情のまま言葉にする。
ぐりぐりと胸に頭を押し付けた。
嬉しい。嬉しい。凄く、嬉しい。
…おれのこと、心配して戻ってきてくれたんだ。
「…嬉しい?」
「うん!すっごくうれしい!」
「…そっ、か。良かった」
「……くーくん…?」
ぎゅう、と背中に回された腕に抱きしめられて、そのほうっと安堵したように零された言葉に、良かった…?って何だろうとハテナマークを浮かべて首を捻った。
…と、
「これからもずっと、そうやって無邪気に笑っててほしいな」
「え、えと…」
「俺、まーくんの笑顔が大好きだから」
「……っ、」
抱きしめられたまま言われた言葉に、驚きすぎて顎が外れそうになった。
やっとの思いで、ごく、と口の中にたまった唾を飲みこむ。
(…聞き間違え…じゃ、ない)
…夢、これはゆめなのか、とほっぺを引っ張ってみても痛くて夢じゃなかった。嬉しい。
え、ええええ…、えがお、え、くーくんが、おれのえがお、だいすきっていった!!!いってくれた!!!とバグッている頭のなかで何かが叫んで叫びまくって喜びすぎてフィーバーしている。
「…だから、喜んでくれることなら、笑顔になってくれるためなら…何でもしたい。欲しい物があるなら、全部用意するよ」
「…っ、」
頬が、熱い。
真剣な声音で耳元に囁かれた台詞。
その言葉によって、ぶわっとこみ上げる熱が全身に広がって、燃えているように熱くなった。
「…う、あり、ありが、と…」
できることなら今すぐに床をごろごろして喜びを全身で示したい。
けど、…そうする心の余裕もなくて、ただ、たどたどしくお礼を言って、ぎゅう、と彼の服の裾を握るだけになった。
…なんか、
そこまでいわれると、凄い熱烈な告白をされているみたいで…ドキドキする。
48
お気に入りに追加
1,137
あなたにおすすめの小説

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!


相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
ド平凡な俺が全員美形な四兄弟からなぜか愛され…執着されているらしい
パイ生地製作委員会
BL
それぞれ別ベクトルの執着攻め4人×平凡受け
★一言でも感想・質問嬉しいです:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion
更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です
X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる