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しおりを挟む疲れた、っていうか「…っ、」ぜったい傷に響いた。呻く。
…やっとのことでのぼれて、その枝に腰をかけつつ、少し休憩する。
ついでに、お家でお母さんを待ってて、よくご飯がない時に食べてた赤い桜の実を掴んだ。
桜も勿論綺麗だけど、その実も相変わらず綺麗で、惹かれる。
「…くーくん、よろこぶ、かな…」
…庭のだから見慣れてるかも。
今更ながら勝手に取っていいのかもわからず、ちょっと迷う。
結構高い木の上のはずなのに、塀が高すぎて外も見えない。
枝の上だから脚がぶらぶらして不安定だ。
太いとこに背中を預けて、下を見下ろす。
…ここから落ちたら、痛そう。
でも、
(…もし落ちて、おれが怪我したら…心配してくれるかな)
「…っ、て、何考えてるんだ、おれ」
ぶんぶんと振り払うように首を振る。
人に迷惑かけるようなことはしちゃだめだ。
…それに、浴衣も借り物なのに汚してしまった。くーくん、怒るかも…。
怒られるところを想像して、ぎゅっと浴衣の裾を握る。…いや、怒ってくれるならまだいい。前みたいに冷たくされたら、…だめなのに、きっと泣いてしまう。
ゆらゆらと着ている浴衣の袖が風で揺れてはためくのを見下ろしながら、屋敷の方を向いた。
……やっぱり、見えない…。
くーくんの姿を探そうとして、しょぼんと落胆する。
この木も随分大きいけど、屋敷はもっと大きかった。
ちょっとは見えると思ったのに。残念。
(…今、何をしてるんだろう)
澪の言葉が頭にこびりついて離れない。
…そういえば、誰かを呼び捨てにするなんて初めてだった。
今度、くーくんの名前も呼んでみたいな。
「……ねむ、」
少し考えて、ふわ、と欠伸をした。
こうしてあたたかい場所にいると、ねむくなってくる。
ジンジン頭も痺れるし、…少し寒い。
熱で潤んだ瞳を、伏せた。
……おれがここにいるって見つけてくれるかな。
(…べ、別に、見つけてくれなくてもいいけどね。)
なんて心の中で意地を張ってしまう。
うと、うと、と眠くなりながら、こてん、と頭を木にもたれかけさせる。
「…くーくん、…の、あほー……」
ばか、あほと、更に文句を言って……ちょっとだけ、と重い瞼を閉じた。
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