626 / 784
現在
50
しおりを挟む声の方に振り向くと、障子ごしに人影が見えた。
さっきの声からすると、…おんなの、ひと…?
”他の人と話したら――”
瞬間、
くーくんとの約束を思い出して、あ、と口を自分の手でおさえた。
(…やくそく)
…や、でも、大丈夫だった。やくそく、は、くーくん以外の前で泣かない、傷つけられない、?あとなんだっけ、…とりあえず…だから、しゃべるのはだいじょうぶ。やくそく、やぶってない。
安心して、膝をついた状態のまま、そこに近づいていく。
「こ、こんにちは…っ」
くーくん以外の人としゃべるの久しぶりだ、とドキドキしながら言葉を返す。
向こうからは見えていないけど、なんとなくぺこりとお辞儀をしてしまう。
そうすると、「お久しぶりです」と返ってくる高い鈴のような声。
できるだけ近くに行こうと、扉に恐る恐る手をかけた。
「…だれ、ですか…?」
「この前お会いした者ですが、覚えていらっしゃいますか?」
「…お、覚えてます。えっと、…」
ついさっき考えていた人物なだけに、思い出すのに時間はかからなかった。
黒い髪の、優しそうな雰囲気の、
…おれを、助けにきてくれた人。
「私のことは、澪とお呼びください」
「…れい、さん…?」
「ふふ、はい。澪って呼び捨てでいいですよ」
「え、あ」
笑いを交えている声に、よ、よびすて…!と衝撃を受ける。
まさかそんな風に言ってくれると思わなかっただけに、さっきよりも心拍数が上がった。
「お、おれのことも、真冬って呼んでください。そ、それと、敬語もなしで、…」
おねがいします、とたどたどしく言葉を返す。
敬語を使われるのは、慣れない。
…むしろ、もっと乱暴な言葉でいいのに。
お母さんと同じ女の人にこうして優しい声音で話しかけられると、…なんか、凄く変な感じがする。
変な意味でドキドキしてしまう。
障子越しに見える影が頷いた。
「今日は、真冬と仲良くなろうと思ってここに来たの」
「…なかよく?」
「うん。」
驚いて、聞きなれない言葉に首を傾げる。
と、「…嫌?」と少し悲しそうな声がして、違う、おれが変な反応をしたせいで勘違いさせてしまった、と「嫌じゃないよ」とぶんぶん首を振った。
「…友達に、なってくれる?」
「う、うん…!もちろん…!」
窺うような声に、こくこくと勢いよく頷いた。
「良かった」と安堵に息を吐く彼女に、へへ、と照れくささを交えて笑う。
(ともだち…)
くーくん以外の、はじめてのともだち。
嬉しい。
…学校では、おれが汚くて、だめな子だったからこんな風に話しかけてくれる人なんていなかった。
だから、凄く凄く嬉しい。
「…ね、ここ、開けてくれない?」
「あ、えと、くーくんに、閉められちゃったから…だから…開けられなくて、」
一応、もう一度開かないか確認する為に扉を引いてみる。
…がたがたと音がするだけで、やっぱり開かない。
(…もし開いてたら一緒に遊びに行けたのにな)
しょぼんと頭を垂れて、早くくーくん帰って来てくれないかな、とため息を吐いた。
「…あな…は、…………」
「…澪、さん…?何か言った?」
ぽつりと呟かれる声があまりにも小さくて聞こえない。
呼び捨てにって言われたけど…やっぱりいきなりは無理で、とりあえずさん付けになった。
首を傾げて問いかけると、ううん。何でもないと返ってくる。
「それと、私のことは澪でいいって言ったのに」
「…あ、ご、ごめ、ん。慣れてなくて、」
「…友達なら呼びすてが普通なのよ?」
「う、うん!次から頑張り、ます」
そっか。呼び捨てが普通なのか。うむ。知らなかった。
…どうしても初対面に近い人と話すと、口調がたどたどしくなってしまう。
あああ、なんでこんなに緊張しちゃうんだろう。
ずーんと沈んでいく自分が情けなくて到達点の見えない穴の中に落ち込んだ。
うう…と地面に向かって絶望していると、「…そういえば、」と思いついたように零される声。
「…真冬はその”くーくん”が今、どこにいるか知ってる?」
「わかんない…最近、よく何も言わずに置いていかれる、から…」
俯いて、膝の上においた手を拳に変えてぎゅっと握る。
言葉にすると、もっと落ち込んだ。
…そうだ。まだ、いない。
(…くーくんのばか。早く、帰ってこい)
27
お気に入りに追加
1,078
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました
ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。
「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」
ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m
・洸sideも投稿させて頂く予定です
俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き
toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった!
※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。
pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/100148872
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる