手足を鎖で縛られる

和泉奏

文字の大きさ
上 下
581 / 609
現在

5

しおりを挟む




慌てた表情のくーくんが心配そうに眉を下げて、覗き込んでくる。

…だめ、なのに。

ふるふると首を横に振る。


「ちが、ちがう、あの、おれ…っ、」

「…ゆっくりで、いいから」

「…っ、う…、う゛ー」


…くーくんが泣いてないのに、またおればっかり泣いたら、だめだって、わかってるのに。

片手で抱き寄せられて、優しく抱きしめられる。
その体温に安心してまた更に涙が零れるのを感じながら肩に瞼を押しつけた。



「ちが、う…っ、」

「……」

「痛かった、とかじゃ、なくて」


…そうじゃないなら、何なんだろう。

なんでこんな気持ちになるのか、わからなくて、でも必死に言葉をまとめようとする。

ひっく、ひっくと意味もなくしゃくりあげて、その度に喉が痙攣して言葉が変になる。


「く、くーくんに、…っ」

「?うん、」


ぎゅう、と掴んだ服を握る。
くーくん、くーくん、と何度も心の中で叫ぶ。


「凄いなって、言ってもらったり、好きだよって、言ってもらうと」

「…うん」

「なんでか、わかんないけど、涙が、とまんなくて…っ、」


くーくんが、だいすき。
だいすきなんだよ。

胸が苦しい。
でも、痛いって感じじゃなくて、嫌な感じでもなくて、

だからきっと、言葉じゃ表せられないくらい、…そのくらい好きで、大好きで、

…そう思えば思うほど、こんな気持ちを抱えきれずに持て余してしまう。


「どうしたら、いいかわかんな…っ、」


話している間にもぼろぼろと涙が零れ落ちて、声が詰まった。

濡れていく頬。
そこを拭うように優しく触れる指に、ぎゅっと一瞬瞑る。


「…ひ、く……く、-くん…っ、」

「………、」


嗚咽ばかりな声で呼んで顔を上げる。

すると、やっぱり泣いてばかりのおれに、彼はちょっと困ったような表情をしてて、

でも…なんだかくーくんまで泣きそうな顔をしているように見えた。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

あなたに私の夫を差し上げます  略奪のち溺愛

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,104pt お気に入り:146

【異世界大量転生2】囲われモブは静かに引きこもりたい

BL / 完結 24h.ポイント:2,165pt お気に入り:9,132

先行投資

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:17

男の娘レイヤー時雨-メス堕ち調教-

BL / 連載中 24h.ポイント:752pt お気に入り:876

ちっこい僕は不良の場野くんのどストライクらしい

BL / 連載中 24h.ポイント:880pt お気に入り:561

死にたがりの僕は言葉のわからない異世界で愛されてる

BL / 連載中 24h.ポイント:2,692pt お気に入り:309

初夜の翌朝失踪する受けの話

BL / 完結 24h.ポイント:575pt お気に入り:2,936

子供が欲しい俺と、心配するアイツの攻防

BL / 連載中 24h.ポイント:582pt お気に入り:115

処理中です...