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過去【少年と彼】
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しおりを挟む呼吸の音さえも聞こえそうな程、静まった空間。
「……ぁ、」
耐えきれなかったのか、それとも違う意味からなのか、酷く掠れた声が…その痩せた身体から漏れて、
久しぶりに、その姿を瞳に映す。
最後に会った時は何もなくて綺麗だったはずの頬には刻まれた細かい傷跡。
明るめの茶色でさらさらだった髪は、今は汗か血で濡れて固まっていた。
そして、はだけた…というか破れてほとんど意味を成していない服から覗く肌にある、切り傷、打撲痕、痣、痣、痣。
…見るだけで痛々しくて、その跡が昔のまーくんを想起させる。
明らかにさっきよりも震えて、動揺しているのが見て取れた。
こっちを振り向こうとしたのか顔を少しだけ動かす素振りを見せて、でもすぐ椿の手に瞼の上を塞がれる。
「いいじゃねえか。”昔の御主人様”に見せつけてやれよ。お前は俺のモンになったんだって」
「…ッ、…でも…でも、…まって…まって…ください…ごしゅ、じんさ…」
パンパンパン…、!
狼狽えて、軽く首をふるふると横に振るまーくんには構われず、腰を掴まれて、目の前で律動が再開される。
少し離れた場所からも聞こえていた音が間近くで更に速度を上げて、鳴った。
腰を掴まれて、後ろから熱の塊を押し込まれて揺さぶられる肢体。
抵抗もできないまま、待って、と続ける声が嗚咽まじりの酷い泣き声を混じらせた。
その汚れた頬を、とめどなく透明な涙が落ちていくのが見える。
…のに。
これは真実だって自覚しているのに、
まるでそういう映画を見ているような気分で、酷く現実感がなかった。
それどころか、そこで行われている行為自体よりも、その瞳から流れる涙に意識が向く。
(…泣いて、る…?)
それは、俺がここに来てから更に酷くなったようにも思えて
「…(なんで、)」
そんなに辛そうな表情で泣いてるんだろう。
ぽつりと、湧き上がる疑問。
…俺が見てると、何か都合の悪いことでもあるのかな。
まーくんにとって、何か、…
そこまで考えて、脳内で掻き消した。
無駄に期待してしまいそうになる。でも、そんなはずはないんだから、
(…気にしなくていいのに)
そう思った。
椿のことが好きになって、今必要なのは椿で、
だから、…まーくんの意思でしてることなら、すぐ傍で見ている俺のことなんか気にする必要はない。
俺が今までやってきたことに加えて、しかも勝手に傍から離れるって決めて別れを告げたんだから、このぐらいの報いは当然だって、…わかってる。
だから、見ていたくないなら何も見なかった振りをして、
今すぐにでもこの場を離れることができたら、そうできたら良かったのに。
その言葉を聞かずに済んだのに。
「…おれ、は、……ッ、ごしゅじんさまのことが、だいすきで…っ、」
(………)
肉のぶつかる音。
激しい水音。
手足に繋がれた鎖から鳴る金属音。
そうやって見せつけるように目の前で行われている行為は、まるで獣のようで、恋人というよりはレイプみたいな…毎日あの人の部屋でよく見ていた光景で。
そして、その小さな孔からグチュグチュと抜き差しされている椿のソレによって上がる喘ぎ声にも似た…嗚咽まじりの涙声。
そんな音に負けじと張り上げられる、最早泣き声と言えるほどの、言葉に、耳を塞ぎたくて、でもできなかった。
そうして、
「…っぁ、これからも、ずっと…ご、ごしゅひん…っ、さまの…ッ、もの…です…っ!!」
(……っ、)
他の人間に誓われた台詞に、
心臓が、潰れた音がした。
(……嗚呼、)
「……流石に、これはキツイ、…な」
自分でも聞き取れない程小さな声で呟いた言葉は、絶対的に悲嘆的なもののはずなのに、
…どうしてだろう。
俺の口元は、何故か酷く歪な笑みを浮かべているような気がした。
――――――――
(なぁ、まーくん)
(…そんなに俺を傷つけて楽しい?)
ぎゅうと服の上から握りしめた胸が痛い。
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