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過去【少年と彼】
謝って、抱きしめて、
しおりを挟むそうして時間も忘れて寝ているまーくんの姿を離れた場所から見守っていると、
「…ぅ…、…」
「おはよう。気分悪くない?」
目が覚めたらしく、ベッドの上でゆっくりと身体を起こして何かを探すようにその顔が動く。
ほとんど丸一日眠っていたせいかその動作が酷く緩慢だった。
いつものように問いかけると、俺の言葉に頷く頭。
ほっと安堵の息を吐いて、「良かった」と微かに微笑みながら声をかければ俯く顔。
部屋が暗いせいでその表情は陰になっていて見えにくい。
…でも、同時にそれは位置的に更に暗い場所にいる俺の顔も見られていないということで、都合が良かった。
しばらくして座ったまま俯いて、何故かチラチラと遠慮がちに視線を向けてくる姿に優しく声をかける。
「どうかした?」
「……ぁ、…えっと、なんで…そんなに遠くにいるの…?」
「…なんとなく、そういう気分だったから」
どう答えようか考えあぐねて、どこか歯切れの悪い言葉になってしまう。
…不思議そうに「…蒼…?」と呟かれる声に、何故か心配されているような気がして何も考えずに躊躇いがちに片手を少しだけ伸ばした。
「まーくん、おいで」
「……うん」
意外にも拒絶されない。
自分から呼びかけたくせに、驚いて目を瞬いた。
まーくんは小さな子どものようにこくんと頷いて、被さっていた布団を退ける。
のそのそとベッドから降りようとして、膝に力が入らなかったのか、カクンとそこが折れて、「ぁ…っ、」と小さな声と同時に床に軽く身体が崩れ落ちた。
「…っ…い…ッ、」
「ッ、大丈夫…?!怪我とか、痛いところは…っ、」
「…だい、じょうぶ…。ちょっと眩暈がしただけ」
まさか頷いてくれると思ってなかっただけに、対応に遅れて焦る。
呼び寄せようとするんじゃなくて、俺がいけばよかった。
…いや、でも来てくれようとするなんて予想できなかったから、…なんだろう。ムズムズして酷く居心地が悪い。
心配で駆け寄ろうとした俺に首を振って、ゆっくりと身体を起こして裸足のまま床を少し危なげな歩き方で寄ってくる。
もし少しでも怖がられたり、泣きそうな顔をされたら止めようと思っていたのに。
…だからさっきまであんなに乱暴に触れていたのに、そうやって近づいてきてくれることが信じられなくて。
いつ転ぶかと心配でハラハラしながら、段々距離を縮めてくる姿に胸がキュッと痛んだ。
恐る恐る、その身体に手を伸ばす。
「…まーくん、」
「わっ、」
待ちきれず、もうすぐというところまで来たまーくんの腕を引いた。
引っ張った身体がバランスを崩して、ほとんど倒れ掛かるような状態で抱きしめる。
軽く触れる程度で胴の辺りを抱くようにして腕の中に閉じ込めた瞬間、引き寄せた反動で自分にかかる多少の重さを感じた。
「…嫌じゃない?」
今ならやめられる。
今ならこれ以上触るなと言われれば、何もしないでいられる。
でも、すぐ耳元で「…うん、」と静かな声。
「……っ、」
本当に拒否されないことがわかって、ゆっくりと胴に腕を回して抱き締めた。
そうすれば、腕の中に大人しく収まる身体。
…避けられなかった。
安堵の息を漏らして、瞳を伏せる。
(…嗚呼、やっと安心できた)
愛しい体温。香り。
身体に回した腕に少し力を入れて抱きすくめる。
お互いの身に纏っている着物が距離を失くした。
…そうしていると、さっきの自分がした行為が思い出されて、唇を噛む。
「…っ、」
また、やってしまった。
まーくんを怖がらせて、苦しめた。
…何回、間違えれば気が済むんだろう。
自分が安心したくて、それだけのためにまーくんに何度も同じ行為をした。
”自分のしたいことだけを真冬に押し付けて、”
”そんなんで本当に真冬のこと、好きって言えるのかよ…!!”
アイツの言うことなんか真に受けるな、と言い聞かせても、どうしても思考がその言葉で埋め尽くされる。
「っ、」
傷つけたくないとあんなに思っていたはずなのに、毎日のようにまーくんをこうして抱いているのは事実で、
まーくんが誰かと話したりすると…他の人間の方にいってしまいそうな要素があると無性に苛々して、歯止めが効かなくなって、後でいつも後悔するのに同じことを繰り返してしまう。
(…離してあげればいい。そうしたら、もうまーくんに辛い思いをさせずに済む)
…なのに、それが、…それだけのことが、
できない。
「……ごめん」
「……なに、が…?」
「…っ、ごめん、」
謝って、どうなる。
謝ったって俺がまーくんをここから出してあげられるわけじゃない。
逃がしてあげられるわけじゃない。
(…どうして、俺は…こんなに自分でもどうしていいかわからないくらいまーくんが傍にいないと苦しくて。…どうしてこんなにも、まーくんがいないと生きていけないんだろう)
幾ら考えても、その理由はわかることはない。
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