手足を鎖で縛られる

和泉奏

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過去【少年と彼】

君を俺の籠に閉じ込めて、永遠に二人きり

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もう二度とあの時の感情を味わいたくない。
それに、既に一度…あんなことをしてしまった俺にはこれ以上何も怖いものなんかなくて。


謝って仲直りできた後でも、俺が考えることは1つだけだった。


…まーくんを守る。そのためにずっと傍にいてもらう。


どれだけ嫌がったとしても、元々はこれが俺とまーくんの望んだ世界のはずだった。

たとえまーくんが忘れていても、俺がちゃんとあの約束を覚えてるから。


それから屋敷内で、まーくんに手を出そうとする者は全員排除した。
危ない危険因子は消しておくに限る。
もう困ることはない。
そうして、やっと迎えに行くことができた。


(…これで、良かったんだ)


まちがってない。
こうして近くにいれば、絶対にまーくんを危険な目に遭わせることはないんだから。

誰の目にも触れることがないし、傷つけられることもない。
それに一々盗聴器とかカメラをつけなくても、屋敷内にいてくれればすぐに駆けつけて守ることができる。

相変わらずどれだけ日数が経ってもあの人の差し向けた黒服達は懲りずに毎日来てたし…、ほんと暇だな。逆に模範的な毎日出勤に尊敬の念さえ覚えてしまった。

それでも、まーくんを抱きしめたり一緒にいられたりすると、そうやって虫のように湧いてくる奴らを片付ける疲労とかストレスとかが見事に解消されるからそんな些細なことどうでもいいや、なんて前は思ってたんけど、


……流石に、あそこまでくるとまーくんの危機管理能力がなさすぎて怖くなってくる。


男に告白されたり、男数人に襲われたり、ストーカーされたり痴漢されたり”友達”って偽の関係でほいほい騙されたり…、まーくんの周りは物事が多すぎて苦労が絶えない。多すぎるってレベルを超えてる。

あの一件だって、俺がアイツらを止めなければどうなっていたことか。

まーくんは無防備にも”トモダチ”とやらのために自分の身体を使わせて、挙句の果てに「自分(つまりまーくん)とトモダチ、どっちが俺達とセックスするか」って不良の馬鹿みたいな問いに本気で「自分」を選ぼうとした。

…結局どっちを選んだって俺がいなかったら、あの場でヤられてたとは思うけど。

(散々色んな奴に輪姦されて、怪我されて、痛い目を見て、苦しんで、)


…まーくんはそうされていただろう。


「…(俺が、無理矢理まーくんに…したように)」


やるせない思いに、重く瞳を伏せる。

時々、見てるとわからなくなる。
自分から進んでそういう道に望んで向かっていっているような気がするときもあるし。


(…って、…あれ、)


不意に「蒼様って、」アイツらと向き合ってた時に呟かれた声と戸惑うまーくんの顔が脳裏をよぎる。

…それをきっかけにちょっと変なことを思いだしてしまった。そういえばアイツらの一人が「騙したのか」とか言ってたような。


(……、)


…続いて「好きにすれば?」「そういうこと考えるお前たちのこと、結構(利用できるから)嫌いじゃないし。俺は止めないけど」とか火に油を注ぐという諺を体現する感じの…むしろ手伝ってあげるぐらいの勢いで何か自分が言葉を吐いたような気がしてきた。


「……」


…まぁ終わったことだし、もうどうでもいいか。難しく考えるのはやめよう。


それにしても。


「…(あー、どうしてまーくんはいつも俺の願っていることと逆のことをするんだろう…)」


危ないからって何度警告しても聞いてくれなくて。逃げられてばっかりで。

(なんでそこまでして他人の為にできるのか、…俺には全く理解できない)

……だから、ちょっとくらい痛い目に遭った方がもっと周りを警戒してくれるようになるだろう。とか、
そこで助ければ自分にもっと頼ってくれるようになるかもしれない。…いい薬になるしまーくんの為に必要なことだとか…色々思ってあんなこと言ったんだっけ。記憶を探っていたら、なんというか…思い出したくないことまで完全に思い出してしまった。


何を言ってもまーくんは騙されちゃうから。簡単に人を信用してしまうから。人のために自分を躊躇わずに犠牲にしようとするから。

…だから、こうする以外に方法がなかった。


「無駄だよ、抵抗しても」

「…っ、」

「…ていうか、抵抗されたら…まーくんに何するか自分でもわからないのがちょっと、…いや結構怖いな」


「それでもいいなら暴れてみれば?」と続けて囁く。できないのはわかっていた。まーくんは絶対に俺から逃げられない。

けど、敢えてそう言葉にする。

カチリと音を立てて手足に枷をつける。

…薬で眠らせて、寝ている間に屋敷に連れてきた。

何日間も眠らせていたせいか、普段にも増してぼうっとした瞳。
その身体はベッドに深く体重を預けていた。




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