498 / 784
過去【少年と彼】
8
しおりを挟む✤✤✤
その1年くらい後、現在のまーくんに関する報告を聞いた。
まーくんが俺と離れた日の夜、自分の母親を刺したということ。
それで今病院にいること。
そして記憶喪失だということも…聞いた。
病院での様子について聞くと
入院した当初は母親を刺した精神的ショックが原因と考えられる記憶喪失のためか、ずっと抜け殻のように呆然としていて誰の言葉にも反応しない、…かと思えば突然泣き出したり…ずっとそんな状態で。
今は少し落ち着いたらしい…けど、
その話を聞いただけで胸の奥の深い部分がぎゅっと締め付けられる。
(…嗚呼、早く会いにいかないと)
記憶喪失だと聞いた今、その思いは強くなるばかりだった。
…やっぱりまーくんは俺と一緒にいないとだめなんだ。
今も泣いてるかもしれない。
怯えてるかもしれない。
不安になってるかもしれない。
傍で、守ってあげないと
…これ以上、一人きりになんてさせられない。
だから…、
記憶を忘れてたっていい。全部忘れてても、まーくんの傍にいることができればそれで構わないと思った。
でも、その反面
……今までの記憶を全部失くしたなんて…そんなの嘘だ。嘘に決まってる。
そんな思いがどこかにあって、
まーくんが俺のことを忘れるはずない。
…もし忘れてたとしても、すぐに元に戻る。
きっと会えば思い出してくれる。
また、前みたいに”くーくん”って呼んで笑ってくれる。
…だって、俺とまーくんのことはまーくんの中でそんな簡単に忘れることができるものじゃないはずだから。
だから早く会って確かめたい。抱きしめたい。
……記憶がないなら尚更、まーくんにとっての俺の…”くーくん”の代わりが出来る前に、傍に行かないと……
そのためには…、
「…蒼君、どうしたの?ぼーとして」
腕を掴まれて、ぐいと引き寄せられた。
(…ああそうだ。今…仕事中だった。)
”仕事”で女と会話していれば、必ずと言って良いほど頬を染めてこうやって胸を強調して色目を遣ってくる。
臭い香水を身に着けて、鬱陶しいくらいの化粧を顔にする。
今日も同じだった。
どの女も一緒だ。
全部同じ。
…今日はあの人が家にいない。
知られる心配がない。
それを事前に確認したから、今こうして部屋でこの女と完全な二人きりでいられる。
長い間あの人に従順になってよく働くようになった俺に、もう監視の目はなかった。
――だったら、やることは1つしかない。
「……」
唇を噛み締める。
顔を上げて腕を伸ばした。
「…っ!?」
後頭部を手で支えて自分から女を引き寄せ、無理矢理唇を重ねる。
吐き気を堪えながら、驚いて息を止める女の舌を捕らえて絡めれば嬉しそうに顔を上気させる。
酸欠になりそうな程の荒々しいキス。
「…っ、ふ…ッ、ぁ…っ、あおい、く…っ」
「…――、俺のこと好きなんだろ?」
「…え、ええ…」
唇を離して、低くそう囁く。
この女が俺のことを性的な目で見ていることなんて前から知っていた。
だから、どうせなら相手だって好きな人間に抵抗されてこういうことをするより、自分から望んでしてくる関係の方がいいはずだ。
「…だったら…何でも言うこと聞くから、俺のお願いも聞いてくれる?」
…脳裏に浮かぶのは、自分に変なことをしようとした女に笑顔を浮かべていたまーくんの姿。
それを真似して、子どもらしく上目遣いで見上げればわかりやすく頬を上気させてゴクリと唾を飲む女に、ふ、と口元を緩めた。
―――――――
今はまだ条件に出された分の金の額には程遠い。
それを達成しなければまーくんに会うことすらできない。
…それだけじゃない…その後も含めてできるだけ多く、利用できて、かつ俺の為に喜んで動く人間が必要だった。
20
お気に入りに追加
1,078
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました
ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。
「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」
ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m
・洸sideも投稿させて頂く予定です
俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き
toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった!
※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。
pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/100148872
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる