494 / 842
過去【少年と彼】
4
しおりを挟む付き合う、なんて本当に形式上のもので
人前では手も繋ぐ、笑って話もする。
抱きしめて甘い言葉だっていくらでも囁いてやる。
でも、それ以上のことはしない。
隣で嬉しそうに笑う女に何の感情もわかない。
…一度あの男の前でキスしてみせろと言われて無理矢理したけど、やっぱりその後吐き気が込みあがって、血が滲むほど唇を拭って口を漱いでも何かがそこにこびりついてる感覚は消えなかった。
別にキスなんて所詮皮膚と皮膚の接触だ。
したからって何かが変わるわけじゃない。
…現にまーくんと会うまでにも仕事で何度も色んな人間にしていた。気になんかならなかった。
さっきだって屋敷に来た女に媚びるために、取り入るためにキスをした。
自分に好意を寄せる女がいればいるほど有利になる。
後で何かに使えるかもしれないから有効な手段なのに、割り切ればいいのに…今まではそうできていたのに
なのに、どうして、
「…やはり、な。どうにもお前が戻ってきてからというもの、…様子がおかしいような気がしてな…もしや惚れこんだか、と思ってはいたが…」
「ッ、」
抑えられない不快感に堪えきれず水道で洗っていると
突然背後でそんな苛々とした声が聞こえて、驚きに心臓が跳ねる。
急いで振り返った。
俺よりも随分背の高い、着物姿の男の姿。…肩書上父親という男。
ぴらぴらと揺らして見せつける様に揺らされる写真がその手に掴まれている。
そこに映る懐かしいまーくんの姿にぐ、と唇を噛む。
「嗚呼、面倒だ。これは面倒だ。接吻程度でその度に洗ってるようでは話にならん。それもこれもコレに会ってからだろう。以前のお前はそんな風じゃなかった。まだ教育途中で未完成ではあったが、完璧な人形になれる経過をたどっていたというのに」
「……」
どうみても俺よりももっとずっと人形らしく整った顔で微笑むこの人間の子どもだと思うだけでも心底吐き気がするのに、この人はどうしても自分の思い通りの子ども…人形を作り上げないと気が済まないらしい。
無表情で見返す俺を尻目に、写真を見て顔を歪める。
「こんな薄汚れたモノの代わりなんかいくらでもいるだろう。屋敷内の犬ならどれでもくれてやるぞ」
「いりません」
ふざけるな。
見下すような軽い言葉に怒りが込み上げてくる。
まーくんに代わりなんかいない。
ましてや、誰かが代わりになれるはずもない。
はぁとわざとらしくため息を吐いたその人が馬鹿か、と罵る。
「一人の人間に固執すれば弱みになる。今だってお前はアレに囚われている。アレさえ人質に取れば何でもするようになっている。…弱すぎる」
「…弱くなってなんか、」
「お前が好きだと錯覚してるのは、ただ初めて優しくしてもらえた人間だからってだけだ。勘違いするんじゃない。お前にそんな感情はないんだ。間違いだ。自分に酔うな。ばかみたいな感情は捨てろ」
「っ、」
間違いじゃない。勘違いなんかじゃない。
一方的に決めつけられて吐き捨てられる言葉に苛立ちが胸の中で広がって、言い返そうと口を開いたその瞬間、その男がパチンと指を鳴らす。
(…――っ、)
その音と同時にぞろぞろと出てくる数人のスーツ姿の男達。
嫌な予感がして逃げようとすれば犬どもに身体を押さえつけられた。
いつもの部屋に連れていかれて手足を鎖で繋がれて首輪を嵌められる。
「再教育の時間だ」
「…っ、」
父親の怖いくらい無感情な顔。
ゾクリと背筋に思わず身震いするほどの寒気が走った。
18
お気に入りに追加
1,137
あなたにおすすめの小説

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!


相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
ド平凡な俺が全員美形な四兄弟からなぜか愛され…執着されているらしい
パイ生地製作委員会
BL
それぞれ別ベクトルの執着攻め4人×平凡受け
★一言でも感想・質問嬉しいです:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion
更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です
X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる