手足を鎖で縛られる

和泉奏

文字の大きさ
上 下
477 / 784
過去【少年と彼】

13

しおりを挟む







…お互い顔を真っ赤にして下を向いて黙り込んでしまう。


と、


「う、」

「…う?」


いきなり抱きしめている真冬がぶるぶると真っ赤なまま震え始めて
次の瞬間、変な声が聞こえてきた。
首を傾げる。



「あーっ、ぅううう…っ!」

「…え、ちょ、真冬?!」



変な声を発したと思ったら、突然変なうめき声と同時にどこかに走りだしてしまった。
腕の中の体温が消える。
どこにいくのかと少し焦って、身体を起こした。
急いで振り返って、うわああと声を上げて走っていったその方向を見る。



「……(…)」



そしてそれを見た瞬間、真冬が何をしたかったのか把握して、

…なんだか凄く可愛らしくて自然と笑みが零れた。



「何やってんの」

「……っ、うう…っ、は、はずかしすぎて、げんかいでした…」


真っ赤になった顔を隠そうとしたらしい。
こっちに尻を向けて、カーテンに身体をぐるぐる巻きにしていまだに羞恥心に悶えているらしくぶるぶる震えている。
顔だけを隠せていればお尻は隠せてなくてもいいらしく、頭隠して尻隠さず状態になっていた。
小動物みたいだ。


「…っ、はは…っ、」


(…本当、可愛い)


真冬は一体何でできてるんだろう。
例えるなら空に浮かんでるふわふわの雲みたいな、なんかそんな感じで

そこにいるだけで癒される。

そんなものに今まで出会った事がなかった。


「真冬」

「…ッ、」


呼ぶとビクッと大きく震えるお尻。


「まふゆー」

「…っ、も、もうちょっとだけ、まってくれると、うれしい、です…」


…すごい恥ずかしがってる。
まさかここまでとは。


(…なんか、意地悪したくなってきた)


可笑しくて笑いながらぺたぺたと床に手をついて近づいていく。
できるだけ音を立てないようにしたから、多分真冬は気づいてないだろう。

びっくりさせてやろうとカーテンでぐるぐるまきの身体に手を伸ばす。


…―――その瞬間、


伸ばした腕を突然掴まれた。


「…ッ、え、」


視界が少し暗くなる。
近づけられた顔に驚いて動きを止めた直後、

ちゅ、と唇に当たるやわらかい感触。


(…っ、)


瞼を閉じた顔が離れていく。
まだ状況が把握できずに目を瞬く俺に、えへへ、とどこか照れたように笑いながら顔を真っ赤にした真冬がべーっと少し舌を出した。


「ちゅーのおかえし!」

「…ッ、」


(…やられた)


仕返しじゃなくてお返しって言うのがなんか真冬らしい。

尋常じゃないほど熱くなる頬に、煩い心臓に、思わず笑いが零れる。



(嗚呼もう…)


…こんなのどうしろっていうんだ。

力が抜けてよろよろと倒れそうになるのを必死でこらえる。
額に手をついて息を吐いた。


…可愛すぎて堪らない。
愛しくて胸が苦しい。


胸の辺りをぎゅっと掴む。
何故か泣きたくなるくらい熱く震える胸に、息ができなくなりそうだった。

…まさか、生きてる間にこんな感情を感じられるなんて。

真冬がいなかったら、きっと一生わからなかった。


…やっとどうしてこんな気持ちになるのか理解できた。
今まで度々感じてたけど、よくわからなかった感情の意味。

…今、わかった。


「…好き」


小さく呟いてみる。
言葉にした瞬間に身体の中に広がる波のような感情。

母親から、もっとずっと昔に聞いたことがある。

”好きな人と一緒にいると、胸が苦しくなって…痛くなって、なのに、とても満たされてて嬉しいのよ”

そして…好きという感情は目に見えなくて、気づくのが凄く難しいものだと言っていた。


その時はその言葉の意味がよくわからなかったけど、


…嗚呼、あった。
俺にもこんな気持ちがあったんだ。
ちゃんと、あった。


…あの人に言われたような、誰も好きになることができない『物』じゃなかった。

…嬉しい。凄く、嬉しい。

視界が潤む。
喉が熱く震えた。
息を吸って胸を焦がす気持ちに微笑む。


「…俺も好きだよ」


もう一度、こんどはちゃんと言葉にした声は、少し離れてまたカーテンにぐるぐる巻きになってしまった真冬には届かない。
それでも良い。
俺が、自分でこういう感情を見つけられたんだから。


…真冬が好きだ。


さっき自分が口にした言葉を思い出す。
…”数年後”、なんて自分がどうなってるかわからないのに。
でも、ずっとこれからも真冬と一緒にいたい。
真冬といれば俺は普通でいられるから。
生きてるって実感できるから。


(…真冬と、ずっと一緒に)


…それだけは、絶対に失くしたくない願いだった。

――――――――

その願いは凄く些細なもので、きっと願わなくたって自分たちは一緒にいられるから大丈夫だと軽く考えてた。

…でも、それはどうやっても叶わない願いだったってことを、俺は少し後で思い知らされることになる。


しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました

ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。 「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」 ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m ・洸sideも投稿させて頂く予定です

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

処理中です...