手足を鎖で縛られる

和泉奏

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過去【少年と彼】

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「いかない」

「…へ?」


唐突にぽつりとつぶやいた俺に、テコテコ歩く足を止めて「?…?」と顔に思いっきりクエスチョンマークを浮かべて振り返る。


「離して」

「……ぁ、…っ、ぅ…ごめん、なさい」


ぎゅっと握られたままの手を見て冷たく言うと、異常なほど泣きそうな顔をしてパッと離される小さな手。
ショボンと頭を垂れる姿に、すごく悪いことをしたような気分になる。


(…別に何も謝られるようなことなんかされてない)


そうは思っても、こういう時にどんな風にそれを言葉にすればいいかわからなくて結局黙り込んだ。

歩く間に段々思考が冷静になってきて、なんでこんなわけわかんないやつにこんなほいほいついていってるんだろうと思って、

なんか頭撫でられたり嬉しそうに話しかけてきたり手を繋いできたり、そういう今までされたことがなかったことに無意識に警戒心が僅かでも緩んでいた自分に気づいて、すごくすごく癪で。


…これ以上コイツといたら何か大変な醜態をさらしそうな気がした。

だから、早く離れないと。

わけのわからない恐怖感があった。

…それに、コイツの家に行って、もし親に見つかって通報でもされたら大変なことになる。


「いかない…?」

「お前の家になんかいかない」

「…どうして?おれ、なにかわるいことした?きらい?」


なんできらいとかそういう話になるんだと怪訝に眉を寄せる。


「じゃあ、こうえんいく?ちかくのすごくすごくお砂のきれいなばしょおしえてあげられるよ!」

「…なんでそんなに俺に構ってくるの?」


親切にされたところで俺は何も返せない。

むしろずっと気になっていたのはそのことだった。
俺と遊んだところで、何の利益もないはずなのに。



「…だって、ずっとなんか…ふるえてる、から…」

「…っ、ふるえてなんか、」


脳裏にずっと残っている”モノ”達の行為。

あの人を刺した瞬間に感じた重い感触。

臓器に刃が到達した時の、恐怖感。



忘れられるわけがない。
…でも、俺はなにもわるいことなんかしてないんだから。


だって、おれは何も間違ったことなんてしてなくて、

…微かに自分の身体が小さく震えているのが視界の端に見える。
でも、その震えを押さえようと拳を握りしめて身体に力を入れた。


”ふるえてなんかない”


「…え?ちょっと、」


そう言おうとして、ぎょっと目を見開いた。

何故かソイツが「…っ、…っ、ぅうう…」と小さく唸りながら完全に泣き出す寸前の顔をしてぶるぶる身体を震わせていて、驚く。
目に涙をいっぱいためてこっちを見ていた。


「…っ、なんで泣いて…」

「ぅ…っ、ひ…っ、」


もう完全に泣き出してしまった。
ボロボロと大粒の涙を頬に流して、嗚咽を零している。


どうしたらいいかわからない。

何で泣くんだと酷く焦る。

そんなに泣かせそうになるほどさっきの言葉が傷つけたのかと焦りに焦って、ごめん、と言おうとした瞬間、ふわりと自分の身体を温かい体温が包みこんだ。

ぎゅうううと力いっぱい抱きしめられる。

腰に回される腕。

頬にふれる茶色がかった髪の毛。


「…?、何…?どうし、」

「だって、ずっとくーくん泣いてるんだもん…っ、!!」

「…っ、くーくんって、」

「くーくんはくーくん…っ!!!!」



うわぁぁあんとしゃくりあげながら怒ったように耳元で叫ばれるから鼓膜が破けそうになる。

…なんでそんなに怒ってるんだろう。

くーくんって誰だと言いたくなったけど、話の流れでそれが誰のことを言ってるのかなんて考えなくてもわかった。

それとは別に、言われた言葉の意味が理解できない。

泣いてる…?
誰が…?

(…………俺が?)


ありえないと思った。

さっき死ぬと思った直前は泣きそうになってたのは癪でも認めるけど、今涙を流しているはずない。


…俺が、人前で泣くなんてありえない。


人前では泣かないように、感情を出さないようにずっと練習してきたんだから。

あの人に認められるくらい、うまくできるようになったんだから。

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