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吐き気と、暴力と、
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しおりを挟む「ちゃんと見てたからな。よくやった。お前のことは捨てたりしない」
「…っ、ごしゅじん、さま…ッ」
全部全部全部今さっき見たものを忘れたくて、その存在に甘えるようにぎゅっと腕を回して縋りつく。
こうしていれば、もう見ることはない。
嫌な光景が、視界に入ることはない。
抱きしめてくれる体温があることが嬉しくて、胸が熱くなる。
「家畜」
「…はい」
「そんなに俺に嫌われたくないか?」
「…はい…きらわれたく、ない、です…」
俺にはもう、この人しかいないんだ。
俺にはもう他に誰もいない。
縋れる相手も、抱きしめてくれる相手も、俺を見てくれる相手も、…もうこの人しかいない。
…昔とは違う。
ずっと一緒にいたいと望んでいた相手は…蒼は、もう俺から離れていってしまった。
蒼のことが好きだったのはもう昔の話で、今はもう…好きじゃない。
掴んだ服を握る指に力を入れる。
「おれは…ごしゅじんさまがそばにいてくれればそれだけでしあわせなんです……」
「……」
「ごしゅじんさま…?」
「…あっそ。じゃあ、後ろ向け。ご褒美の時間だ」
何故か一瞬無言になって、ぶっきらぼうにそう吐き捨てられる声に全身が震えて硬直する。
うしろ…?うしろって、
数分前までの性行為の余韻と、性器を幾度も抜き差しされていたことにより熱く擦れた痛みが続いている後孔。
(もしかして…)
身体は火傷しそうな程の熱を持っているのに、やけに冷たいものが背筋を流れていった。
「あ゛?俺様の褒美が気に入らねぇのか」
「…ッ、そんなこと、ない、です………いれて、ください…っ」
低くなった声音にビクッと身体が跳ねて、首を強く横に振った。
怖い。
俺を抱きしめてくれていた身体が離れていく。
眼球が熱くなって泣きそうになりながら、背を向けて四つん這いになる。
「ひ…っぁ゛あああ…ッ、」
性器を掴まれたと思った瞬間、ずぷりと何かが刺さる感触。
一瞬後、性器が熱くなって爆発しそうなくらい大きくなって脈打つ。
その鼓動が一気に全身に広がっていくような感覚。
熱い。熱い。苦しい。
(…っ、や…っ、嫌だ…ッ、また…っ、変なの、打たれた…怖い…っ)
「なぁ家畜…挿れてください…なんて、品がねえし言葉遣いがなってねえよなぁ。ちゃんとお願いしろ」
「…ぅ、ぁ…っ、…」
髪を掴まれ、顔を上げさせられる。
今の打たれたやつのせいか、舌が痺れて呂律がうまくまわらない。
「ほら、言え。お前はご主人様にどうしてもらいたいんだよ」
「…っ、ひ、く…おねが、い…します…っ、おれを、…っ、抱いて、ください…」
口にした言葉とは裏腹に、物みたいな扱いをされるのは目に見えていた。
それでも涙を流しながら息も絶え絶えにやっとのことでそう叫んだ直後、
腰を掴まれる。
濡れた亀頭が穴にあてられ、一言もなく奥まで侵入してくる。
「…ッ、?!は、ぁ゛―ッ!ん…っ、ふ…ッ」
「あーあ、傷だらけにしやがって」
パンパン、とんとんって奥を突かれて、中を掻きまわされながら尻に相手の腰がぶつかる音がする。
さっき市川って男に挿入された場所に、今度は御主人様の性器をギチギチに挿れられる。
亀頭がぬるぬる擦り上げて奥に進むと同時に、中に残っている精液やおしっこが押し込まれてくる感覚に節々が強張った。
「ひぁ、あぁっ、…ッ、あぁっ、んぅ…」
ずっとひたすら叫び喘いでいた声は掠れていた。
喉が痛い。
必死に痛みを訴えようとする声と感じている身体による泣き声をおさえようとして手で口を覆う。
御主人様とセックスできることが嬉しいはずなのに、その幸せを感じる感情より終わったと思っていたところに再び刺激を与えられたせいで涙がぼろぼろ零れる。
後ろから繰り出される激しいピストン運動に嗚咽を漏らしながら、突かれるたびに声を上げて泣く。
先程打たれた何かのせいか、何を自分が今考えているのかすぐにわからなくなった。
痛みより気持ち良さが強く滲んで、肚のナカが勝手にぎゅうぎゅうするような強い快感が全身を貫く。
「…ッ、…っ、は…ッ、腰振りながら嬉しそうにちんぽ締め付けてくるじゃねえかよ…っ、そんなに俺のこと好きか…っ」
「…っ、ん、んぅっ…っすき、です…ッ、」
「は…ッ、なにもしらねぇくせに…っ、ばかなやつ…ッ」
最奥に向かって何度も性器の先端をピストンされ、一気にきゅううと締め付けたせいでビクンっとナカで肉棒が震えた。
ぐ、と低く唸り、歯を食いしばるような声が聞こえて、肚の中に熱の温度が広がる。
俺自身も痙攣し、絶頂する。
イッてる最中も、その後も性器が常に硬く反応して、こぽっ、ごぽっと透明の液を吐き出していた。
浅い呼吸で息をしながら、汗と精液でどろどろに汚れて、まだ火照り続けて下腹部が痺れる快感に淫らな声が漏れる。
「なぁ、家畜」
「…っ、ぁ…は、い…っ」
「俺からのプレゼントは、気に入ったか?」
「ぷれ、ぜん…んっ…、と?」
肚から引き抜かれていく熱に、小さくびくびくと震えながら声を漏らす。
ぷれぜんとってなんのこと…だろう…?
ぼうっと呆けながらその言葉を頭の中で反復した。
御主人様が離れて、どこかへ歩いていく。
地面に倒れて息を整えていると、頭を掴まれて持ち上げられた。
目の前に、鋭利な2本の刃。
「…ッ、」
「この鋏のこと、忘れたわけじゃねえだろ」
「…ぇ…」
「俺が褒めたのは、アイツとセックスしたことなんかじゃない」
「…せっくす、じゃない…」
じゃあ、ほかになにが。おれが御主人様にほめられることなんて、それいがいにほかになにも――。
ぐるぐるとまわる思考を止めるように、声は短く呟いた。
「お前がアイツを刺したことだ」
「…――っ、」
クツクツと喉の奥で笑う声に小さくうめき声交じりに悲鳴が漏れて、心臓が激しく動悸する。
御主人様が手に持っているものは、さっき俺が投げ捨てた鋏。
ぽたぽたと鋭利な先端から地面に零れる赤い血に、頭が痛くなる。
「ぁ…ぁ…」
できれば、もう忘れたかった。
必死になかったことにしようと頭の隅に追いやっていた事実を目の前に突き付けられて、呼吸が止まる。
全身から出る汗が、止まらない。
「は…っ、イイ顔になったじゃねぇか」
「……な、…おれに…いつ…」
「お前が市川とセックスする前に、そうしなくてもいいようにいれておいてやったんだ。感謝しろよ」
興奮したように熱い吐息を漏らした御主人様に太腿を掴まれた。
仰向けのまま左右に広げるようにして股を開かされ、性器を挿入してくる。
「…っ、ん、ぐ…」奥に押し込まれてくるその行為よりも、御主人様がどうして俺に鋏を渡すような真似をしたのかがわからなくて、そっちに意識が向く。
心臓が激しく脈を打つ。
「なん、で…?」
「心底、苦しめたい人間がいるからだ」
「…ぁ…っ、は…っ!あっ!…んっ、…」
聞き返そうとした瞬間、激しく突き上げられた。
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