手足を鎖で縛られる

和泉奏

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吐き気と、暴力と、

泣き止んだ家畜

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よしよしと撫でてやれば、俺の浴衣の裾を掴んで幸せそうに微笑む家畜。
そうしていると、


「…これ、は…」

「ん?俺の新しいオモチャ」

「…っ、おもちゃ…?」



口の中が渇いているのか、引きつったような掠れた声が耳に届く。
振り向くと、信じられない、と幽霊でも見たような顔で血の気の引いた顔の彼方がいた。

視線が、一時も逸らされることなく家畜に向けられている。

その視線を感じたのか、家畜が狼狽える様子を見せた。



「…ッ、だ、だれ…っ、だれか、いるんですか…?」

「ああ、気にするな。お前も会いたかっただろ?佐藤彼方」



俺達の会話が聞こえたのだろう家畜は、ビクリと肩を震わせて声のする方から逃げようとしたのか俺の後ろに隠れた。

震える手が、ぎゅっと俺の服を掴んでいる。


(は…っ、意外にこういうのも悪くねえな)


見えない視界に加えて、蒼のことも家畜の中から排除した後、コイツが頼れる人間は今俺しかいない。

そのことになんとなく気分を良くしながら、答えてやると家畜はそれで少し安心したのか、俯きがちだった顔を上げて自信なさげに言葉を零した。


「…かなた…さん…?」

「………真冬くん、どうして、こんな、」


彼方の視線が、ぼろぼろになって、かつ長い間風呂に入ってないせいで血が滲んで固まっている家畜の服や髪、色々なもので汚れた汚い床、そして手足と首に嵌められた枷に向く。

俺はもう慣れたが彼方には刺激が強かったらしい。
異臭を嗅いで苦しそうに口をおさえながら、今にも倒れそうなほど血の気の引いた顔を悲痛に歪めていた。

なんでそんなに驚いてんだ。


「お前だって同じことされただろうが。何そんな変な顔してんだよ」


わけわかんねぇ。
驚きの視線が、俺に向いた瞬間怒りを滲ませる。
軽蔑の色を含んだ視線。

コイツにしては珍しいほど、感情を露わにしていた。



「蒼は」

「…は?」

「蒼は、こうなってること」

「…んなもん、教えるわけねえだろ」


何言ってんだ。
すぐに教えるなんて、そんなのつまらないにも程がある。
今なら教えてやってもいいが、昨日までの状態だったらだめだ。

蒼に依存して…挙句の果てには好きになったと思い込んでる人間を飼ってるってことをその本人に教えてやるなんて、俺に何の利益もない。
そもそも、俺が面白くない。
蒼に依存しまくって、蒼の存在を求めてるヤツを俺が無理矢理連れてきて飼ってる…なんて、そんな屈辱的なこと言葉にしたくもねぇ。

そんなのムカつく。


「真冬くん…」

「おい。勝手に人のモンに触ろうとすんな」

「人のモンって、そもそも真冬くんは物じゃな」

「"俺"の家畜になったんだつってんだろ」


どっかで聞いた様なことをほざく彼方に虫唾が走る。
所詮、人間は誰かの所有物なんだよ。

自分の意思で行動してるってほざく奴ほど誰かに囚われてる。


(……俺だって、そうだ)


歯を強く噛み締めて、は、と嘲るような笑みを浮かべてみる。
もういい。クソみてぇな昔のことなんか思い出すだけ無価値だ。


「でも、真冬くんは蒼が、」

「うるせぇな。蒼のじゃねぇっつってんだろ。」


思わず声が荒げる。
どいつもこいつも蒼蒼蒼言いやがって。
誰かの物なんか、一瞬でも目を離せばいくらでも他の奴のモノにできるんだよ。
そんぐらい、人と人の関係は脆い。

ガンと強く靴の先で壁を蹴れば、家畜がその音にビクッと震えて縮み上がった。

俺の服を掴んでいた手が、一瞬弱まって、でも結局その手は離れていかなかった。

(もうコイツは俺のモンだ)

その怯えている様子を横目で見ながら、彼方の硬い声を聞く。


「どうやって連れてきたんですか」

「寝てたから、バッドで殴って持ってきた」

「……な、」


また絶句したような声。

コーヒーを作るより簡単な作業だった。
柊真冬がホテルに来たと知り合いのオーナーに聞き、すぐにカップの内側に睡眠薬を塗らせて、ついでにそこに置いてあるティーパックの中に大量の睡眠薬の粉を混ぜさせた。
それでその後寝てる柊真冬をバッドで殴って気を失ったのを確認してから運んで持ってきた。

他にも気になることが沢山あるのか、口を開こうとした彼方から顔を逸らしてぶっきらぼうに吐き捨てた。

ああもう、面倒くせえ。


「いいだろうが。別に死んでねぇし。コイツだってこんなに幸せそうじゃねぇか」

「…っ、こんなに血だらけで、ずっとこんな場所にいて真冬くんが辛くないわけないだろ?!!」

「…ッ、ぁ、…っ」

「あ、…ごめ…」


苛立った声を出した彼方の声に、家畜がまたビクついておろおろと心配そうな顔を彼方の方に向ける。
それに気づいて申し訳なく思ったのか、反射的に謝った。


「…っ、あ、あの、かなたさん、」


俺の服をぎゅっと握ったまま、家畜が彼方を窺うように遠慮がちに見て。
そんな家畜に彼方がまた表情を暗くした。


「…おれ、本当に今、幸せですから」

「…っ、でも、」

「だから、ごしゅじんさまに、…おこらないでください」

「…まふゆ、くん…?」


最初微笑んでいた家畜の言葉に、微かに責めるような棘が含まれているのに気づいたんだろう。
彼方はなぜその敵意が自分に向いているのかと驚いたように目を瞬いた。

あーあ、ショック受けてるなこりゃ。

笑いだしたい気持ちを堪えて、喉の奥で笑いながら家畜の目隠しに手をかける。


「せっかく彼方と感動の再会ができたんだ。目隠しでも取ってちゃんと挨拶したらどうだ?」


そのまま目隠しの下に指を入れてはずそうとする。

するといきなり家畜が身体を大きく痙攣させるように震えて首を横に振った。


「や…っ、いやだ…!」

「……」

「やめてくださいお願いします見たくないんです何も…もう見たくないんです」


涙声でボロボロと泣き出して俺を見上げて縋るような表情をした家畜は、地面にずるずるとへたりこんでおびえるようにいやだいやだと何かを恐れるように涙を流して嗚咽を漏らす。
ただでさえ暗闇にトラウマを抱えていたらしいこいつに、別の更なる恐怖が植え付けられてしまったらしい。

そしてすぐ近くに彼方がいるのにも構わず俺の浴衣の下に手を伸ばした。
泣いてるくせに、どこか壊れたようにその顔はへらへらと笑っている。


「きょう…きょうの、のみものください…」

「今日はせっかく彼方が来てんだ。彼方にお願いしてみろ」


にやりと笑って、家畜の行動に呆気にとられて硬直している彼方の方に目を向ける。
俺の命令通り自分の前に来た家畜に、何か言おうとして一度開いたその唇は言葉を紡がない。


「かなたさん…」

「ま、ふゆ…くん…」


ちゃんと跪いて彼方の服を掴んでから、その存在を確認した家畜が彼方を真下から見上げる。
喉が渇いている分、舌足らずな家畜の声。
そんな家畜の姿を目に映して、彼方がゴクンと喉を鳴らしたのが目に見えてわかった。


「かなたさん…喉が、渇いたので…かなたさんの、せーえき、のませてもらえませんか…?」

「…っ、ごめん…っ、」

「かなたさん…?」

「…俺、もう戻ります」


窺うように首を傾げた家畜に、一瞬不意をつかれたような顔をして動きをとめて。
耐えきれないといったように家畜から目を逸らし、この場から逃げるように部屋を出ていった。

バタン、とドアの締まる音がする。


「あーあ、彼方逃げちまった。仕方ねえな。俺のでいいか」

「…ぁ…」


音のした方を少しだけ名残惜しそうに見送って、


「はい…ありがとうございます…」


そう微笑んで呟いた家畜は俺のモノを取り出して慣れたように小さな口に咥え、奉仕を始めた。

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