手足を鎖で縛られる

和泉奏

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吐き気と、暴力と、

会いたくて、会いたくて、会いたい。

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緩慢な動作で顔を上にあげれば、突然性器を何かが包み込んで、ぎゅっと握られる。

目の前で火花が散る。


「…ッ、いだ…っ、ひ…ッ!!ぐ…っ」

「あー、やっぱ薬打ち過ぎた。無理矢理勃起させ過ぎたみたいだな。こっからも血が出てるじゃねえか。汚ぇ」


上下に擦られれば、条件反射のように血流が一気に性器に集まって欲を放った。
何度も暴れたせいで、手首と首と足首に出来た傷が枷に擦れて痛む。


(…っ、痛い、痛い…ッ)


精液と先走りでグチャグチャだからきもちいいはずなのに、それに勝るほど痛みが性器を襲ってきた。


「おら、汚い精液が御主人様についたぞ?なめろ」

「…ッ、ふぐ…ッ」


口の中に無理矢理指を突っ込まれて、手についたソレを塗り付けるように口内を指で荒らされる。

息ができなくて、苦しくて、苦痛に声を上げて涙を流せば、それに満足したように笑った御主人様は指を引き抜いて、言葉をつづけた。


「家畜。今日はお前に特別サービスな餌をやろうと思って、その話をするために来た」

「…えさ…?」


地面に倒れ込んでその声の方向に視線を向ければ、声は「ああ」と頷いて笑う。
なんだろう、と期待よりも、喜びよりも、むしろ警戒しながら続きの言葉を待つ。


「お前、一之瀬蒼に会いたいんだってなぁ?」

「…っ」


予想しない言葉に、思わず息を呑む。
そして、久しぶりに誰かの口から聞く懐かしいその名前に、思わず涙腺が緩んだ。


「な、んで…」


蒼の話は一度もしたことないはずだ。
そんな俺の疑問の声を無視して、声が俺に問う。


「今でも会いたいか?」

「…っ」


会いたい。会いたいに決まってる。
会いたくないわけがない。

でも。

それをこの場で口にしていいのか、わからなくて黙り込んでいると痺れを切らしたのか後頭部の髪を掴んで引っ張られる。

引っ張られる皮膚が焼けるように痛い。


「ぁ…ッ、ぁ゛あ…ッ」

「おい、家畜。答えろ」

「…ッ」


苛立ちを含んだ声に、ビクリと身体が震える。

熱い涙を零しながら、言葉を吐いた。


「…っ、………あい…たい…ッです…っ」


蒼に、会いたい。

何千回、何億回、もはや数えきれないほど心の中で望んだ。

けど、そんな願いは叶いそうもなくて。

もう一度蒼に会えるはずなんかないと、もうあきらめていて。

だから、言葉になんかしなかった。


(……でも、)


一度その欲求を言葉にしてしまえば。

口から吐き出してしまえば。

もうとまらないほど大きな感情に襲われる。

痛みとは違う涙が、眼球をじわじわと熱くする。


「あいたいです…っ、あおいに…ッ、あいたい……ッあいたい…っ」


あいたい。あいたい。あいたい。あいたい。

髪から手を離されると同時に、顔を手で覆ってひっくと嗚咽を零してしゃくりあげた。

だめだと、こんな無様な格好をさらしたら殴られるとわかっているのに、一度溢れた感情はどうやってもおさまらない。


「…ッ、ひ…、く…ぇ…ッ」


手首から伸びた鎖が、嗚咽を零すたびに耳障りな音を立てる。


あいたい。あいたい。


もう一度「まーくん」って呼んでもらって、もう一度あの少し寂しげな、でも優しい表情で微笑んで、頭を撫でてほしい。抱きしめてほしい。


…もう一度、好きだと言ってほしい。



(蒼…っ)


締め付けられるような苦しみに、胸が痛い。

頬から流れた涙が、裸の脚にぼたぼたと足におちる。


「家畜」

「…っ」


その低い声音に、殴られる、と反射的に身体を強張らせる。

しかし、返ってきたのは思いもよらない言葉だった。


「そんなに会いたいなら、お前を一之瀬蒼に会わせてやろうか」

「…え?」


ずっと望んでいて、

ずっと願っていたことを、

さらりと口にされた言葉に、思わず期待に満ちた声を上げてその男の方に視線を向けた。



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