手足を鎖で縛られる

和泉奏

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蒼のいない朝

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***

夜ご飯を食べて、少し話をした後。

彼方さんが敷いてくれた布団に、入る。

ふかふかのベッドだ。
ぼふっと顔を布団につけて、石鹸の良いにおいを嗅いでいると。

「電気消すね」と言う彼方さんの声に返事を返して、電気が暗くなったのを感じた瞬間に、一気に顔の上まで掛け布団を被った。

薄暗い布団の中で、息をする自分の音だけが聞こえる。


(…久々に一人での就寝…)


隣に敷かれた布団に彼方さんがいるといっても、不安でしょうがない。

いつも一緒に蒼が寝てたから、無意識に手を隣に伸ばして確認してしまう。

手に触れるのは、ただ冷たい布団の感触だけだ。
誰も隣にいない。
ぎゅっと布団を掴んで、ばくばくと嫌に心臓が鳴る。

…どうしてかはわからないけど、いつの頃からか真っ暗な部屋で寝ることが怖くなって、もしも暗闇になるなら、布団をこうして頭の上まで上げないと眠れない。


「…真冬くん」


遠慮がちな声。

少し小さい声が聞こえて、布団から顔を出すと、隣で寝ている彼方さんが何故かおかしそうに笑って、布団を持ち上げながらぽんぽんと自分の隣を軽く叩いた。


「一緒に、寝る?」

「…へ?」


突然の言葉にキョトンと目を瞬くと彼方さんはクスリと笑みを零して、結局我慢できずに吹き出した。
そして、笑いをこらえているように口元をおさえながら小さく小刻みに震える。


(な、なんなんだ…)


どうしたのかと狼狽えた。

今日知ったことだけど、結構彼方さんは笑い上戸だと思う。

ツボに入ると笑いが止まらないらしい。

いや、なんか彼方さんが楽しそうなのを見るのは嬉しいことなんだけど、…なんかそうやっていきなり笑いだされると、どうしたらいいかわからなくなってしまう。

彼はしばらく笑った後、「ごめんね…っ、はは…っ」と目尻を指で拭いながら謝った。


「いや、なんか真冬くん、怯えた小鹿みたいに布団の中でぷるぷる震えてるから…その振動が床を通じて、こっちにまで伝わってきて」


「最初地震かと思って慌てた」続けて言ってまた笑い始めてしまう彼方さんに、一瞬キョトンとして、その後、言葉の意味を理解して、じわじわと頬が熱くなってくる。


「ご、ごめんなさい…」


眠りを妨げてしまった。
俯いて謝る俺に、彼方さんは今度は緩く笑ってまたぽんぽんと隣に手をバウンドさせた。


「暗いの、苦手なんだったら俺と一緒に寝ませんか?」


それは、やっぱり彼方さんらしい、とても大人びた優しい表情だった。

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