手足を鎖で縛られる

和泉奏

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蒼のいない朝

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あの後、あまりの衝撃と悲しみで、溢れ出る感情に身体が耐えきれずに…吐いてしまった。
もうどれだけ謝っても済まされないくらい、彼方さんに申し訳ないことをした。

情けで一緒にいてくれてるだけなのに、吐かれるとか…本当に嫌な気分になっただろう。

胃の内容物を全部吐いたせいでキリキリする。
吐いたことにまた泣いて、吐いて、ずっと泣きながら謝る俺を彼方さんは嫌がらずに、気持ち悪がらずにずっと慰めてくれていた。


しばらくして、ようやく俺が落ち着いてきたところで「座って話さない?」と促され、リビングの椅子に座らせてもらう。

泣きすぎて、そのせいで頭がぼーっとする俺の目の前に、お茶の入ったコップがおかれた。
湯気がたっている。


「…あり、がとう、…ございます」

「いいえ」


ぎこちない俺の敬語に、微かに笑う気配。

今更ながら彼が本当に蒼じゃないとわかって、どう対応すればいいかわからなくなった。

もう散々酷いところを見せたと言えば見せたんだけど、それは蒼だと思っていたからで、…そうじゃないとわかって…本当に、迷惑をかけすぎてしまった。

結構自分でも人見知りだとわかってるから、知らない人がいると何も話せなくなっちゃったんだけど。

やっぱり、蒼じゃないとわかってても信じられないほど、…似てるからかな。

だから、怖くない。この場が窮屈じゃない。


「…(でも、)」


…でも、どれほど似てたって、彼は蒼じゃないんだ。
胸を締め付けるような寂寥感に襲われる。


「…(蒼、)」


今、どこで何してるんだろう…。

ぎゅっと、首から下げたネックレスを握る。

”君を守るための、蒼との約束だから”

彼の言葉を思い出す。

顔を上げれば、向かい側に座った彼と目が合って微笑まれた。


「…っ、」


なんだか見ていられなくて、ぱっとすぐに視線をそらす。
…蒼じゃないなら、どうして彼はこんなにも蒼に似ているんだろう。
俺が本人だと見間違えるほど、彼は蒼に似ている。

もしかして、蒼の兄弟…?

そう思ったけど、蒼から家族がいるなんて聞いたことない。

蒼も、あんまり家族のことを話したがらなかったから、俺が知らないだけかもしれないけど。



「あの、質問してもいいですか?」

「…うん。どうぞ」

「…あなたと蒼は、…その、どういう関係なんですか」


どうしてそんなに似てるんですか、と口には出さないけど、その意味も込めてじっと見つめると。

俺の問いを予想していたのか、特に驚く様子もなく、緩く微笑んだまま彼は俺の問いに問いで返してきた。


「まふゆくんから見て、俺と蒼ってどう見える?」

「どうって…、」

「似てる?」

「…はい。すごく、似てると思いました…」


それこそ、きっと蒼をよく知らなかったら見分けがつかないと思う。
顔も、声も、ほとんど同じ。


多分身長も蒼と一緒じゃないだろうか。

違いを見つける方が難しい。


でも、あえて違うところといえば…雰囲気だと思う。

…少しだけ蒼のほうが空気が冷たくて、一歩間違えればすぐに取り返しのつかなくなるような、死んでしまいそうなどこか危うげな空気を纏っている気がする。

この人の方が、雰囲気が優しい。


「…そっか。変なこと聞いてごめんね。答えてくれて、ありがとう」


お礼とは裏腹に、彼は嬉しそうな、少し悲しそうな微妙な顔をした。


(…なんでそんな顔…?)

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