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不良と
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しおりを挟む止めないといけない。
のに、
「…なんで、俺は、」
身体の震えが止まらなくて、立ち上がることすらできない。
(はやく…っ、早く行かないと…っ)
こうしている間にも、男の前に蒼はたどり着いている。
板本君に刃を向けたままの男は恐怖に真っ青になっていた。
「それ以上近づいて来たら、こいつを殺すぞ」
「は?殺したいなら早くやれよ」
板本君に首筋に刃を当てて脅そうとする男に、蒼はなんでそんなくだらない問いをするのか理解できないと興味なさそうに返した。
「やっぱり、お前俺達を騙したのか…ッ」
「人聞きの悪いこと言うなよ。まーくんに誤解されるだろ」
無表情に見下ろす蒼に、「くそ…っ」と声を上げて彼は手に持ったナイフを蒼に向けた。
「…っ、ぁ、待…っ、」
血の気が引く。
声を上げた瞬間には、蒼の姿はもうそこから消えていた。
「お前には無理だよ」
「っ!!!ぎ、いぐああああ…ッ!!」
難なく避け、男にナイフを突き立てる。
痛みに絶叫しながら肩をおさえて、地面に崩れ落ちた。
血が沁み出ている部分から、目を逸らす。
ぽつりと呟く声が耳に届いてくる。
「あと一人」
その言葉に顔を上げて、思わず「え…?」と驚きの声が零れた。
「や…っ、助けて、柊君…っ」
びくりと身体を震わせた板本君が、俺の後ろに隠れる。
そんな板本君を見て、蒼が不機嫌そうに眉を寄せる。
ナイフを持ったまま近づいてくる蒼に、だめだというように首を横に振った。
「…っ、待って…!!蒼…っ、」
板本君にまで刃を向けるのを見て、焦る。
慌てて庇うように手を広げた。
「……どうして?」
「…え?」
「どうしてまーくんは今ソイツに背を向けて、俺から庇ってるの?」
壊れた人形のように小さく首を傾げて、彼はその綺麗な顔を悲痛に歪ませた。
眉を寄せ、少しだけ泣きそうな顔に見えた。
蒼の言葉に、表情に、思わず目を瞬く。
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