手足を鎖で縛られる

和泉奏

文字の大きさ
上 下
302 / 784
足音

28

しおりを挟む



そのことが、どうにも引っかかって頭から離れない。
俊介が言った「周りで人がいなくなることがなかったか」って前に聞かれたことも気になって。


昨日の夜、依人に電話で聞いてみた。

……そうしたら、「何人もいたのになんで知らなかったんだ」って言われて。

そうだ。なんで俺だけ何も知らなかったんだろう。

依人も知っていて。
俊介も知っていて。
板本君も、知っていて。

……でも、あの時蒼はそんなこと知らないって言っていた。

人がいなくなるようなことがあれば、世間でニュースになってもっと話題に上がる。だから、それを”まーくん”が知らないはずがないって。


確かに俺は知らない。誰かがいなくなったことなんか聞いたこともなくて、知らなかった。


…だから、俺もその通りだと思って、あの時の俊介の問いを勘違いだと思って忘れてたけど。

そのことについて知っている人が何人もいるのに、もう勘違いだろうなんて打ち消して無視することなんかできない。
友達の少なかった俺はまだしも、他にもたくさん友達がいた蒼は本当は知ってるんじゃないかって依人は言った。

そのくらい、多くの人の間で噂になっていたらしい。

そして、いなくなった人は蒼だけじゃなく…”俺”にも関係した生徒ばっかりだったとも言っていた。

……蒼の言ってることと、他の皆が言ってること、どっちが正しいんだ。

もう、どれが本当のことなのかもわからない。


「……っ」


ずきりと痛む頭をおさえて、どくどくと速く脈打つ胸に息が乱れた。
なんで、俺は何も知らないんだろう。

…知らないうちに、どこかおかしくなってるのかな。

一瞬頭の中に顔の見えない人間が何人も浮かんで、消えた。
不安で胸が潰れそうになるけど、今はそんなことをじっくりと考えている余裕なんかない。


「…蒼は、何も言ってくれない」


気づけば、そんな言葉が口から零れていた。
…怒りというより、むしろ悲しみに満ちた声。


その佐竹って男子生徒のことも、一言もいってくれなかった。
俺のために探し出して、多分…俺のことを助けようとしてくれたんだろう、と思う。

すごく、感謝してる。
本当に、嬉しいと思ってる。

でも、なんで俺にそのことを黙ってるんだ…?

………どうして、あの時蒼は行方不明になった生徒が”いない”って言ったんだ。

どうして、何も教えてくれない。

唇を噛みしめる。


「依人のことだって、俊介のことだって、板本君のことだって、せっかく友達になれたのに…っ、なんでそんなに俺から離したがるんだよ…っ!」

「…っ、それ、は…」


悲しみと怒りでぐちゃぐちゃになった感情のせいで、眼球が熱くなってくる。
ぼやける視界の中で、そこにいるだろう蒼を睨み付けた。


「…っ、そうやって何も言ってくれないのに、いつもいつも俺が蒼のいうことを聞こうと思えるわけないだろ……!!」

「…――ッ、まーくん…っ、待…」


気づけば、叫ぶような大声を出して背を向けて走り出していた。

周りで歩いていた生徒が驚いたように、こっちを振り返る。
でも、焦った蒼の呼び止めるような声も、他の人の目も無視する。


俺だって、

(…俺だって、自分だけ何もしらないままなんて嫌だ…っ)


冷たい風が強く顔に吹き付けて、刺すように肌が痛い。

けど、そんなことどうでもいいと思えるほど、今はとにかく一人になりたかった。

しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました

ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。 「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」 ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m ・洸sideも投稿させて頂く予定です

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

処理中です...