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足音
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しおりを挟むぎゅぅぅと、自分を掻き抱く身体はほんの僅かに震えているような気がした。
「……夢、みたいだ……」
震える声が、耳元で囁く。
「…嬉しい。すごく、嬉しい」
彼の声は、少し上擦って掠れていて。
その言い方から、言葉から、全身から蒼が嬉しいと思ってくれてることが伝わってくる。
身体越しに感じる普段からは想像もできない息遣いや震えに、目を瞬いた。
(…そんなに、喜んでもらえるとは思わなかった)
一瞬驚いて、でも、自分があげることでこんなに喜んでもらえるのなら。
…それは、とても幸せなことで、嬉しい。
微笑んで、彼の背中に手を回してぎゅっと抱きしめ返す。
「まーくん、ネックレス取り出してもらってもいい?」
「あ、うん。いいけど、俺が開けて良いの?」
どうしよう。こういうものって、貰った本人より先にあげた本人が開封していいのもなのだろうか。
そう考えて首を傾げれば、彼はふ、と頬を緩めた。
「うん。まーくんに、開けてもらいたい」
「う、うん。わかった」
責任重大だなと震える手で袋から箱を取り出して、そのリボンを解く。
カパッと箱を開ければ、首からかけるチェーンの部分と、その先に銀色と深い藍色の混じった細いリング型のモノが見える。
リングって言っても指に嵌められるほど大きくもないし、お洒落で絶対に蒼に似合うと思ったから買ってしまった。
「かけて」と照れたようにはにかんで、ちょっと屈む蒼に、「う、うお。なんか、どきどきしてきた…」と呟く。
というか、髪サラサラだし、顔が整ってるどころか首も当たり前のように綺麗だし良い匂いするし、やっぱり女子にモテるはずだ。緊張しすぎて意識しすぎて勝手に心臓がおかしくなってきた。なんだこれ。
余計なことまで考え始めた思考と、かけるときかなり距離が近くなったことで、緊張が最大値を超えた気がする。
「どう、かな」
「…っ、うん。凄く格好いい。似合ってる」
彼の問いに、笑って大きく頷く。
蒼の整った容姿のおかげで、物自体の値段より遥かに高価な物に見える。
家の大きさとか、様づけされてたことを考えると、普段はもっと高い物を身に着けているかもしれないから、少し申し訳ない。
「………今なら、…もう死んでもいいかも」
首から下げたリングを見下ろし、そう零した彼は大げさじゃないかと思うほど、酷く嬉しそうに目を細めた。
その瞳が暗がりのせいか、潤んで見える。
「改めて、約束する」
「なにを?」
唐突な言葉にキョトンと首を傾げてそう問えば。
いつもの微笑みとはまた少し違う表情。
何の陰りもないあでやかな笑顔を、その綺麗な顔に浮かべて
「…―俺が、まーくんを死んでも守るから」
彼はそう囁いて、そのリングに口づけた。
「…っ、な、何言って…ッ」
真剣な表情でそんなことを言われて恥ずかしいやら嬉しいやらで戸惑ってしまう。
だけど、”死んでも”なんて簡単に言わないでほしい。
顔が赤くなったり青くなったりしているのが自分でもわかる。
驚いて何言ってるんだと言いかけて、ぐらりと一瞬視界が歪んだ。
その笑顔が昔見た誰かに重なって、ずきりと頭が鈍く痛む。
すごく大切な人だった気がするのに、その少年の顔には黒い影がかかっていて、それが誰だったのかも思い出せない。
ーーーーー
蒼の俺を守るという言葉は。
まるで祈りのようで。
でも、どこか呪いのような響きを含んでいた。
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