手足を鎖で縛られる

和泉奏

文字の大きさ
上 下
272 / 842
彼が、いない

14

しおりを挟む





***

そして、就寝時。


「まーくん、一緒に寝よう」

「…う、うん」


元々布団は一つしか用意されていなかったから選択権なんてないんだけど、当たり前のようにひとつしかないことにちょっとびっくりした。
布団にもぐりこむと、背中に腕を回してぎゅっと引き寄せられる。


「…やっぱり、俺が怖い?」


抱き寄せられた瞬間に、少しだけ無意識に身体が硬くなってしまったのがばれてしまった。
息を吐いて、身体の緊張を少しでも緩める。


「…ちょっと」


ここで否定しても意味ないだろうと思って、素直に頷いた。
確かに、怖い。
怖いと身体は思ってる。


でも。

ぎゅっと蒼の浴衣を掴んで、顔を上げた。


「…今は、怖くない」

「無理しなくてもいいよ」


俺と目が合うと、彼は困ったように笑った。
…本当に今は怖いと思ってないのに。


「あの時だって頭の中がぐちゃぐちゃになってわけがわからなくなって、嫌いだって言って、何でこんなことしてるんだろうって思ったくせに、結局無理矢理ヤって、……まーくんを傷つけた」


後頭部に添えられた手によって、彼の胸元に押し付けられる。

ふいに俊介の言っていたことを思い出した。
蒼の俺への感情は、愛情でも友情でもないと。


…そもそも、好きって、どんな感情なんだろう。


それさえも俺には、わからない。
蒼のことも、俊介のことも好きだと思う。
でも、それは多分友達への好きなんだと思っているけど、俊介は俺にも自分の気持ちに気づいてないと言った。

…ということは、その友達への好きという感情すらも俺の思い違いだったりするのかな。

それに、友達的な意味の”好き”と恋愛的な意味の”好き”では何が違うんだろう。

友達に対する好きでも、恋愛感情での好きでも好意的な感情は同じなのに、決定的に何かちがうものがあるのだろうか。どこが異なるのか、考えてみてもわからない。


蒼と俺のこともそうだ。

…俺達は、男同士だから。
余計に友達とか、恋愛とか、その境目がぐちゃぐちゃになって、相手に対する感情がよくわからなくなってしまうこともあるのかもしれないと、ふと思った。

押しつけられた場所から、肌を通して心臓の鼓動が聞こえてくる。


「…ずっと痛かった…」


頭上でぽつりと声がする。


「…まーくんに俺のしらないところでなにかあったり、まーくんが俺から離れようとすると、心臓が壊れそうになる…」


その声が、身体が震えていて。
顔を上げようとすれば、隠すように強く抱き締められる。


「…だから俺は、まーくんがいないと、だめなんだ……」


その言葉に目を瞬く。
俺に、そこまで蒼に言わせるほどの何かがあるとは思えないのに。


どうして。

……でも、こんなふうに言われたら俺にできることは一つしかない。

どうにかして安心させたくて…微かに震える背中に腕を回した。


「…俺は、ここにいるから」


どうして、蒼はこんなに俺に執着するのだろう。
彼の身体を抱きしめながら、静かに目を閉じた。


しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

「じゃあ、別れるか」

万年青二三歳
BL
 三十路を過ぎて未だ恋愛経験なし。平凡な御器谷の生活はひとまわり年下の優秀な部下、黒瀬によって破壊される。勤務中のキス、気を失うほどの快楽、甘やかされる週末。もう離れられない、と御器谷は自覚するが、一時の怒りで「じゃあ、別れるか」と言ってしまう。自分を甘やかし、望むことしかしない部下は別れを選ぶのだろうか。  期待の若手×中間管理職。年齢は一回り違い。年の差ラブ。  ケンカップル好きへ捧げます。  ムーンライトノベルズより転載(「多分、じゃない」より改題)。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

処理中です...