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彼が、いない
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「……」
そろそろ木から葉っぱがなくなって、本格的に肌寒くなってきた。
寒空の景色を見るのはすごく好きなのに、本当に寒いの苦手だな。
まだ全然冬でもないのに身体が震える。
今日も、また学校に来てしまった。
「…(…蒼は、今日は学校に来るかな。)」
そんなことを考えながら歩いていると、不意に声が聞こえた気がした。
…振り向く、と
「……っ、」
まだ遠く、…その人物がこっちに…校舎の方に歩いているのを見つける。
改めて遠くから見る蒼はすらっと身長が高くて、冷たいと感じるほどの表情も含めて美しくて、…そこだけがまるで別世界かと思うほど、…とても綺麗だった。
いつもなら声をかけて走っていくんだけど、「ぁ…っ」と呼びかけようとした声は、すぐにしぼんでいく。
ここで俺が声をかけて何になる。
そもそもなんて声をかければいいんだ。
本当に嫌いだと思われているなら、話しかけないほうがいいんじゃないのか。
ぐるぐると思考が巡っては、停止する。
「…ッ、」
それに蒼の隣にいたのは、前に昼放課の時に俺よりも先に蒼と一緒にご飯を食べると言っていた男子学生だった。
……だから、もともと俺が声なんてかけられる状況でもなかったんだけど。
「……」
本当に、今まで蒼が俺に言ってくれた優しい言葉は全部嘘だったのか。
今までの蒼は全部偽りだったのか。
そんなわけないと信じているからこそ、本当のことを知りたい。
…今日話せば、もしかしたらあれは全部嘘だったと言ってくれるかもしれないから。
躊躇い、踏み出しかけた足を止める。
「……」
………やめた。
なんで、ここまで俺は蒼にこだわってるんだろう。
不意に、そんな思考が頭を掠めた。
今の俺には俊介がいて、あんなに一度嫌いだと言われて、そして俺を無理矢理…犯した蒼に。
近づく意味なんて、あるんだろうか。
自分の手が震えているのに気づき、…とっさに隠れてしまった。
「……(なに、やってるんだろ…俺、)」
俯いていた顔を上げて、さっき蒼が見えた方向に視線を向ける。
……蒼とその男子生徒が二人で、校舎の中に入っていくのが見えた。
「………、」
空を見上げる。
朝なのに、どんよりと曇って灰色懸かっている。
…その色はまるで俺の心を映しているようで、
今から自分がどうするかなんて、いつの間にか自分で何かを決めることが出来なくなった俺には、
話しかけることも、それを無視して校舎に入っていくこともできない。
……ただ、生徒が通り過ぎていくのを見ながら立ち尽くしていた。
――――――
どうするのが、一番良い結果になるか。
初めから全部わかっていればいいのに。
その日から、蒼の女性との性的な関係についての噂を聞くことが増えるようになった。
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