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見えない糸の絡まり
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蒼との約束を守らなければならない機会は、思ったよりすぐにやってきた。
昼放課に俊介たちとご飯を食べている時だった。
「わ、すご…やばい。何度見てもかっこよすぎ…語彙力なくすわ…」
「てかなんでこのクラス来てるんだろ。誰かに用事?でもほんと何でもいい。…こんな近くで拝めるの幸せ…神…」
「私は絶対に高望みしないけどね。女子皆狙ってるって噂聞いた時やばって思った」
「そりゃあ、あわよくばでしょ。万が一って可能性あるし」
近くで食事をしている女子達が凄い興奮した様子で話しているのが聞こえてくる。
特定の人物といる時によく耳にする言葉。
なんとなく女子達の視線の先を追えば…教室のドアのすぐ傍に蒼がいた。
目が合うと、その頬は緩んで。
薄く整った唇が動く。
横に広げられるその動きに、バッと立ち上がった。
(そうだ、2秒以内…っ、!)
「…ッ!!」
「真冬…?!いきなりど」
「ごめん!!」
目が合った瞬間カウントダウンをし始める蒼に、どくんと心臓が跳ねる。
俊介に謝って、急いで蒼の方に向かった。
息も絶え絶えの俺に余裕な表情の蒼がふ、と微笑んでダメ出ししてくる。
「んー、ちょっと遅い」
「む、無理だって…」
全速力で走ってこれだ。絶対に3秒は過ぎてる。
ちょっとしか走ってないのに、必死になったから息切れしていた。
(つ、辛…っ)
今回すぐに気づいてこれだから、次は間に合わない。
でも、その頑張りを認めてくれたらしく「よしよし。お疲れ様」と頭を撫でられた。
(悔しい…)
「ちょ、ちょっとこっち…」
「……?」
周りの視線を感じて、腕を引っ張った。
皆から見えない場所に連れていく。
「俺をこんなところに連れてきて変なことでもするの?」
笑って揶揄ってくる蒼に、ぶんぶん首を振って否定する。
なんでそうなるんだ。
むっと眉を寄せる。
「違う。…けど、何か用事あったんじゃないの?」
「ないよ」
蒼が来るくらいだから、何か用でもあったんだろう。
…そう思っていただけにきっぱり「ない」と否定されて、驚いて目を見開いた。
「え…?ないの?」
俺の問いに、彼は照れたように少しはにかんで笑った。
「まーくんに会いに来ただけ」
「あ…っ、の、それはあり、がとう…?」
まさかそんな理由で来てくれたとは思わなくて、ここはお礼を言うべきか言わないべきかで、迷って言葉が途切れ途切れになる。
でも、会いに来てくれたのは純粋に嬉しい。
「え、えーっと、…わ…っ」
用事がないのなら何を話そうかと考えていると、いきなり抱きしめられた。
そのサラサラな黒髪が微かに顔に触れて、制服かどこからかわからないけど凄く良い香りがする。
「え…っ、ちょ…っ蒼?」
突然の行動に驚いて目を瞬く。
さすがに人目はないとはいっても、少し離れただけだから誰が通るかもわからないのに。
顔を上げようとすると、後頭部に添えられた手に身体の方に寄せられる。
縋りつくようにぎゅううと腕の中に閉じ込められて、余計に困惑した。
「”友達”なんだから、このくらい良いだろ?」
「う、うん」
耳元で聞こえる声に、こくんと頷く。
ハグくらいなら友達同士でもよくやるし、おかしくはないんだろうけど。
さすがにキスとかは異常だと思うけど、このくらいならいいんだろうとは思ってる。
それでもあまりにも突然すぎて、一瞬硬直してしまった。
俺より身長が高い蒼にそうやってされると色々と差を実感してしまうというか、なんだろう…手の位置とか、雰囲気とか、そういう諸々含めた抱きしめ方にたまにドキドキしてしまうことがある。
例えるなら、久しぶりに再会した彼女と抱き合う彼氏のような。
大袈裟な表現かもしれないけど、そのぐらい他の人と違う気がする。
蒼に抱き締められる感覚はひどく心地が良くて。
……他の人にはしてるところを見ないから、俺と仲良いからしてくれてるんだと思うと嬉しい。
けど、彼女ができてたら全てその人がこの状況を享受できていたと思うと、そうなりたい人は沢山いるはずだから…蒼にも早く本当に好きな人が出来ればいいなと思う。
「……まーくんは、俺とこういうことするの…嫌?」
その少し小さくなった声に、慌てて首を横に振る。
「ううん。嫌じゃない」
「そっか。良かった」
ふ、と安堵の息を吐く蒼の背中に腕を回して抱きしめ返すと、その体温に安堵して自然に頬が緩む。
不意に静かだった廊下に大きな音がした。
後ろの少し離れた方で何かがぶつかる音と、パタパタと遠ざかっていく足音が聞こえる。
(も、もしかして、誰かに見られたかな…)
いや、でも、これくらいなら普通なはずだし。
「…(…まぁ、いっか)」
考えたってわかることじゃない。
蒼だって、何も反応してないから俺が慌てることでもないんだろう。
その後蒼と少し話をして、教室に向かう。
すると何故か俊介に目を逸らされる。
それからもなんだか笑顔が硬いような気がした。
「なにかあった?」と聞いても「なんでもない」というから、結局そのままその話は終わってしまった。
――――――――――――
見えない糸が絡まっていく。
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