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お世話
14
しおりを挟む蒼にもたれ掛かったまま、安心したら段々と重くなってきた瞼を閉じる。
呼吸が、できる。
ゆっくりと息を吐いた。
「…おれは蒼と友達でいたい」
「………うん」
ぽつりとそう零せば、少し間をおいて蒼の声が返ってくる。
その返答に多少安堵して、おれは震える喉をおさえるように息を吸い、言葉を伝えるために口を開いた。
自分の、今の気持ちを。
本心を。
拒まれたらと思うと、怖くて。
もう全部、今日のことすらなかったことにしてしまいたいけど。
今までのように、忘れたふりをしたいけど。
…それだと、もしこれから蒼と一緒にいるなら、何度も心の中で引っかかってしまうから。
今、言えることを言って、それから戻れるなら元の関係に戻りたい。
”こういうこと”を、しない関係に、戻りたい。
蒼に無理矢理されるのが、嫌だった。すごく、嫌だった。
でも、それでも。
「こんなことで、友達をやめたりしたくない」
「…うん」
少し声のトーンが下がった蒼に顔を向ける。
いつか見た迷子の子どものように目を伏せ、苦しそうな顔をしていた。
その頬に手を伸ばす。
彼の頬に手で触れて、その額に自分のそれをくっつける。
額同士が触れあっているから、顔がすごく近くなった。
……でも、どうしても、そうしたい気分になって。
「蒼、おれは…」
一瞬言葉を止めて。
おれの望みを、彼に告げる。
それが、彼の望むものではなくても。
たとえ彼の望みとは異なるものであったとしても。
……それでも、伝えたいと思った。
息を吸う。
「…――おれは、……ずっと蒼と友達でいたいよ」
「……っ、」
だから、もう二度と、こんなことしないでほしい。
祈るように瞼を閉じてそう伝えれば。
蒼は、息を呑んで。
その唾を飲みこむ音だけが、大きく耳にとどく。
「……」
額を離して、蒼を見る。
彼は酷く寂しげで、悲しげな表情を浮かべていた。
「……うん」
ゆっくりと頷いて呟かれるその声は。
小さくて、いつもより力がなくて。
まるで震えているようにも聞こえた。
泣きそうな顔をした蒼に、抱きしめられる。
「それで、まーくんが俺から離れないでいてくれるなら」
その言葉に、ほっと息を吐いて
おれたちは、改めて”友達”になった。
――――――――
ずっと一緒にいたいから、友達でいよう。
それは、きっとずっとおれが望んでいたヤクソク。
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