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お世話
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しおりを挟むその方向に顔を向ければ、洗面器が置いてあった。
蒼が手に持ってるものが見えて…すぐにそれがタオルだと気づく。
「…ぁ」
「大丈夫。ちゃんと着替えも持ってきてるから」
いつの間にもってきてたんだろう。
というか、どうやって場所がわかったんだ。
パジャマを見せてくれる蒼に、「ありが…」と流されてお礼を言いそうになって、ハッとして「いや、ちが…っ」と首を横に振る。
「ほら、上脱いでばんざいして」と促され、ワイシャツだけでなく肌着も脱ぐよう指示される。
「え…」と躊躇えば、「早く」と当然のように言われて、「う…」と怯んだ。
こういう顔をするときの蒼は絶対に引かないから、おれが何をいっても無駄かもしれない。
「…でも、友達にそんなことさせるのは…」
蒼のしようとしてることがわかって酷く情けなくなる。…というより、そこまで友達にしてもらう価値がおれにあるのかと思った。
友達にしてもらうのは申し訳ないと少し咳き込みながら呟くと、彼は寝ているおれの顔の横に手をついた。
手をついた布団のそれが重みで沈むのが視界の端に見える。
至近距離で視線が絡み合う。
「今から俺にキスされるのと、素直に拭かれるの、どっちがいい?」
楽しんでいるように目を細めながら、究極の選択を差し迫られた。
なんでそんな話になるんだと心の中で突っ込む。
……そんなの、最初からどっちを選ぶかなんて決まってる。
内心眉を寄せながらそれでも友達に拭いてもらうわけにはいかないと、だんまりを決め込んでいると「わかった。キスする」と囁かれる。
躊躇いなく顔を近づけてくる蒼に、焦ってこくこくと勢いよく頷いた。
「…わか……った…。わかっ、た…から…」
ぜーぜーっと熱い息を口から零しながら、すこし身体を捻って脱いで床に置く。
その後、「寝てていいよ」と言われて、抵抗するのも怠いくらい参っている身体に負けて素直にこくんと頷いた。
やわらかくて湿ったタオルの感触が首元に触れる。
「熱くない?」
丁度良い温度のタオルに、身体が弛緩する。
気持ちが良くて、安心して力が抜けた。
「…気持ちいい…」
「良かった」
「…本当に、拭いてもらっていいの…?」
「うん。熱でうまく動けないだろうし、無理するのは身体に悪いよ」
「そう、だな」
ありがとうと息を吐いて、引き受けてくれた蒼に任せることにする。
友達に身体を拭いてもらう自分。
絶対にこれ、熱が治ったら羞恥心で家から出られなくなりそうだなと残っている理性が思いつく。
…でも、今はまだ熱で頭がぼーっとしてるせいで、そこまで気にならなかった。
最初は拭かれること自体に緊張して身体に力が入っていたけど、次第にタオルが汗の滲んだ身体に心地よくて、リラックスしてくる。
「ん…っ、」
元々くすぐったがりなだけあって、それが脇腹とか、首筋とか、胸とかを拭いてくれる時に声を出さないように意識してたけど。
真面目にやってくれてるのに声を出してしまったことが恥ずかしくて、既に熱い顔がさらに熱くなったような気がした。
上半身を拭き終え、新しいパジャマを着せてくれて、絞ったタオルで顔も拭いてくれる。
タオルが顔に当たった瞬間、「わぷっ」と声が漏れて蒼が笑った。
温かかくて気持ち良くて、瞼が重くなってきた時。
チャックを下げる音がした。
腰を軽く持ち上げられ、脚に布が擦れる感触とともにひやりと風が触れる。
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